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上肢運動器疾患の力学的な臨床推論

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上肢運動器疾患の力学的な臨床推論
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今回は,上肢の運動器疾患に対する力学的な臨床推論についてご紹介します.

臨床では,たとえ「右肩関節周囲炎」という診断名であっても,既往に上腕骨外側上顆炎や腱鞘炎があったり,反対側の痛みがあったり,腰痛持ちだったりなど,複数箇所の慢性症状を抱えている方が少なくなりません.

そのよう方に対して患部局所の治療だけに終始していては,根本的な問題解決にならないことを多く経験します.「なぜ,その患部症状を招いたのか?」という発生機序を探求し,解決することが必要不可欠です.

疼痛発生機序を解明するには,重力環境におけるひとの姿勢保持や動作遂行に関する力学的ルールにもとづくことが有用です.

そこで今回は,力学的ルールにもとづく上肢運動器疾患のとらえかたをご紹介します.なお本記事の内容は,Spine Dynamics療法研修会<アドバンス①>の内容を参考にしています.

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上肢疾患の障害像を力学的に推論する

まず上肢運動器疾患の障害像をとらえるには,次の3つの力学的なルールを踏まえて考えます.

  1. 第一のルール:全身の柔性障害
  2. 第二のルール:固定源の剛性機能障害
  3. 第三のルール:駆動源のエネルギー伝達障害

上肢疾患の障害像

第一〜第三,それぞれのルールについてご説明します.

第一のルール:全身の柔性障害

第一のルールは作用反作用の法則」から導かれます.ひとが動作を遂行する際には作用力を発揮すると同時に,身体に返ってくる同等の反作用力を緩衝する必要があります.もしも反作用力を緩衝するだけの柔軟性(物質としての柔性)が足りなければ,緩衝しきられなかったエネルギーは身体の各関節で暴発し,痛みを発します.

そして身体の柔性を担う主たるものは,もっとも大きな質量を占める体幹の筋脊柱の生理的弯曲です.そこで,体幹の筋量が十分か,筋緊張は適切か,脊柱の生理的弯曲は正常かなどを評価するのが重要です.

作用反作用の法則

第二のルール:固定源の剛性機能障害

第二のルールは「固定源−駆動源の関係」から導かれます.四肢のアーム(=駆動源)が合目的的に機能を発揮するには,その土台(=固定源)が安定していることが大前提です.もしも土台が不安定であれば,四肢のアームはその目的を達することはできません(下図).

*固定源と駆動源について詳しくはこちらもご参照ください→『“背骨”を動かして健康になる.Part 2(その2):手足の“土台”として安定する

上肢の運動においては,[下肢〜骨盤(腰椎)]が固定源となり[胸椎(腰椎)〜胸郭〜上肢]が駆動源となる場合が多いです.ただ固定源と駆動源の関係は,肢位や動作の位相によって変化します.

第三のルール:駆動源のエネルギー伝達機能障害

第三のルールは「over-stretch−over-contraction(OS−OC)の原理」から導かれます.「OS−OCの原理」とは,“複数の運動軸からなるアームの運動において,より中枢部の運動軸(関節)に不具合(可動性低下)があれば,より末端の運動軸(関節)において筋の過伸張と過収縮を余儀なくされる”というものです(下図).

正常な力の伝達

正常に力が伝達される場合

OSOCの原理

駆動源での力の伝達障害

ひとの動作は脊柱・体幹を力源として,四肢末端へ力(エネルギー)を伝達することで成り立ちます.OS−OCの原理は駆動源におけるエネルギーの伝達に問題がある場合です.上肢の運動で主に駆動源となる胸椎,胸郭,上肢各関節の関節適合性に着目します.

駆動源のうち,より重心に近い胸椎や胸郭(肋椎関節・胸肋関節)に機能障害があれば,より遠位の肩・肘・手関節周囲の筋には過剰な負担(過伸張・過収縮)を強いられることになります.過伸張あるいは過収縮を余儀なくされた筋は,緊張亢進し,出力低下や痛みを引き起こします.

メカニズムの評価

実際の治療においては,次のような順序で推論していきます.

1.病態と病期は?

療法士の介入に先立ち,医師の診断にもとづく病態の理解が行われます.そして病態が患者の訴える症状にどの程度影響を与えているのか療法士による対応の適応なのかどうかを判断します.

病期については,組織治癒過程(炎症の過程)においてどの時期(炎症期/増殖期/成熟期)にあたるのかを判断します.これには問診から現病歴を整理し,安静時痛や夜間時痛の有無,炎症の五徴候,血液生化学データなどを参照します.

病期によって対応が異なります.急性炎症期にあれば,NSAIDsや注射が著効し,痛みを増悪させないような生活管理が優先されるでしょう.

2.固定源の安定性は十分か?

2-1)固定源に既往歴がない,かつ十分な全身筋量を有している場合

固定源に既往歴がない,そして重力下で身体を支えるだけの十分な全身筋量*を有していれば,ひとまず「固定源機能に問題は少ないだろう」と推察できます.その場合は次の順序で介入していきます.

  1. 駆動源の治療
  2. 固定源の治療
  3. 全身柔性の治療

なお駆動源の治療,固定源の治療のいずれにしても重心に近い関節から介入していきます.つまり駆動源治療であれば,「胸椎椎間関節→肋椎関節(または胸肋関節)→上肢」の順で介入します.

胸郭

*全身筋量の評価では,「体重に対する筋量の割合」が重要です(重力に抗して姿勢を保持するために).全身筋量が不足しているとは,つまり体重に対する筋量の割合が低いということです.「重力下で身体を支えるだけの十分な筋量」は,体重あたり65%以上の筋質量(総タンパク量)を有している体組成をいいます嵩下敏文,脇元幸一,渡邉 純:慢性疼痛疾患患者と健常人における筋質量(%MV)と体重支持指数(WBI)の比較検証.専門リハビリ7:42-45,2008.)

2-2)固定源に既往歴がある,または十分な全身筋量を有していない場合

固定源に既往歴(例えば下肢の骨折や靱帯損傷,腰痛など)がある,または十分な全身筋量を有していない(体重あたりの筋質量が65%未満)場合は,「固定源機能に問題がある」と推察されます.つまり“土台として安定していない”ということです.その場合はまず固定源から治療し,土台として安定させることが先決です.

  1. 固定源の治療
  2. 駆動源の治療
  3. 全身柔性の治療

固定源治療においては身体の土台として重要な仙腸関節,腰椎からアプローチし,下肢関節に既往があればそちらの評価もしておきます.この場合は減量のための運動プログラム食事指導も併行して行う必要があります.

*動作局面「固定源

全身柔性の治療では,駆動源の治療および固定源の治療までで介入していない患側の体幹の各関節,また健側の体幹各関節を治療していきます.臨床的にも,健側まで治療することで患側機能が改善する例を少なからず経験します.

治療理論は,「姿勢制御の改善」

「駆動源におけるエネルギー伝達機能」「固定源における剛性機能」にしても,その機能を担っているのはです.筋機能は筋緊張の程度によって決まります.筋緊張は重心を制御して姿勢を保持するために調節されているため,「姿勢筋緊張」とも呼ばれます.

筋がその機能(最大出力,敏捷性,巧緻性)を余すところなく発揮するには,適度な緊張感を保持していることが必要条件です.

姿勢筋緊張は,全身の各関節に存在するレセプターからの情報(体性感覚情報)にもとづき,脳によって調節されます.つまり体性感覚情報が大脳感覚野に収束され,感覚野から運動野へ伝達されます.運動野では,その情報にもとづき姿勢制御プログラムを発令します.

*「姿勢筋緊張」と痛み,治療理論について詳しくは,こちらもご参照ください→『「姿勢・動作に関する二段階制御 -姿勢筋緊張を整え,痛みを解消する-」

姿勢情報が粗ければ,姿勢筋緊張を亢進させることで動作に制限をかけます.一方,精密な体性感覚情報が伝われば姿勢筋緊張を正常化し,最適な動作を遂行させることができます.

言い換えれば,治療理論は「筋機能を最大に発揮できるように姿勢筋緊張を正常化する.全身の姿勢筋緊張を正常化するには,感覚受容器に対して精密な情報を入力する」ということになります.姿勢制御に関する受容器がもっとも豊富に存在しているのが,仙腸関節および体幹の各関節であり,これらが治療の最初の選択肢となります.

まとめると次のような機序で姿勢筋緊張が正常化し,適切な運動が遂行されます.

  1. 体性感覚情報の改善(体幹各関節レセプターへの刺激)
  2. 大脳感覚野に精密な姿勢情報が入力される
  3. 運動野での重心補正プログラムが改善される
  4. 全身の姿勢筋緊張が正常化する
  5. 筋機能が最大に発揮される

結びに

上肢の運動器疾患に対する力学的な臨床推論についてご紹介しました.力学的推論は痛みや動作能力低下などの症状に対して,ひとの動きの原理から「真の原因(発生プロセス)」を探求する考え方です.

「第一のルール:全身の柔性障害」「第二のルール:固定源の剛性機能障害」「第三のルール:駆動源のエネルギー伝達障害」にもとづいて評価,治療することで真の原因解決につながります.

最後までお読みいただきありがとうございます.あなたの臨床推論にお役立ていただければ幸いです.

 

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