変形性膝関節症の発症の要因については、「knee-spine syndrome」といわれるように姿勢アライメント(脊柱弯曲アライメント)との関連が報告されています。
骨運動連鎖では、骨盤後傾により股関節外旋・膝関節屈曲・内反位へとつながり、外部膝関節内反モーメントを強めます。外部膝関節内反モーメントが増大した結果、膝内側の圧縮応力が増大し、内側の軟骨の摩耗や半月板損傷を生じさせます。
また骨盤後傾は腰椎弯曲の扁平化や胸椎後弯の増大(円背)とも関連します。円背姿勢が進行すると胸郭の拡張性が低下し、呼吸機能の低下や拘束性換気障害、慢性呼吸不全を生じるといわれます。
呼吸機能は運動機能とも関連し、握力や下肢筋力、歩行速度、最大酸素摂取量とも相関するといわれ、日常生活でのパフォーマンスを決める重要な要素でもあります。
このように変形性膝関節症患者の運動機能を考えるうえで、姿勢(脊柱弯曲)や呼吸機能との関連を見過ごすことはできません。
今回は、変形性膝関節症患者において「運動機能の影響を調節した呼吸機能」と「姿勢」との関連を検証した文献をご紹介します。
文献紹介
【変形性膝関節症患者における呼吸機能と姿勢との関連】
藤田玲美(星城大学リハビリテーション学部)
[対象]
65歳以上の女性で、A病院に通院した変形性膝関節症患者28名(平均年齢76.3歳)。
対照群として、地域貢献事業に参加した健常高齢者35名(71.7歳)。
[測定項目]
- 運動機能:膝関節伸展筋力、Timed Up and Go test(TUGT)所要時間
- 姿勢解析:ビデオカメラおよびSpinal Mouseを用いた姿勢解析により、脊柱の各弯曲角度と膝関節屈曲角度
- 呼吸機能:肺活量・%肺活量、1秒量・%1秒率
[結果と結論]
肺活量、1秒量ともに、TUGT、頸部屈曲角度、腰椎前弯角、膝関節屈曲角度との間に有意な相関関係をみとめた。変形性膝関節症患者の呼吸機能の低下には、膝関節屈曲位が有意に関係していた。健常高齢者では呼吸機能と姿勢との関連はなかった。
膝関節屈曲角度は呼吸機能に影響する指標として臨床的有用性がある。
文献を臨床へ生かす
本論文では、変形性膝関節症患者と地域在住健常高齢者とで、呼吸機能に影響を与える姿勢の特徴を調査されています。
リハビリの臨床でも変形性膝関節症患者において、姿勢の変化(脊柱生理的弯曲からの逸脱)や体幹運動の可動域制限を生じているケースを少なからず経験します。
胸郭は呼吸機能のみならず、大きな体積を有しており姿勢制御や外力の衝撃緩衝にも貢献します。胸郭の柔軟性を意図的に制限されると着地時の反力が増大する報告もあります。呼吸機能の低下は運動耐用能を低下させ、日常生活の不活動からさらなる体力低下という悪循環を招きます。
たとえ身体局所の骨関節疾患であっても、全身の姿勢バランスや、運動耐用能に関わる呼吸機能の評価も大事です。変性疾患の発症プロセスと呼吸機能において、「姿勢」や「胸郭柔軟性」が共通してカギになっているのではないかと考えています。
療法士みなさまの臨床の一助となれば幸いです。
参考文献
- 藤田玲美、松井康素、太田 進、他:変形性膝関節症患者における呼吸機能と姿勢との関連。理学療法学45:166-174、2018。