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理学療法士の臨床推論思考を助けるフレームワーク|「仮説カテゴリー」と「D-ダイアグラム」

こんにちは、大山ふみあき(@ThanksDailylife)です。

 

理学療法士として患者さんと向き合ううえで、こんな悩みを抱えていませんか?

  • 新規の患者さんと話すときは毎回、“何から聞こうかな”と迷っている
  • 基礎医学や機能解剖について勉強してきたが、現場でどう使っていいのかわからない
  • 検査手技や治療テクニックの研修会に参加したが、適応患者がわからない
  • もっといい結果を出したくて、新しいテキストを買ったり、研修に参加したりを繰り返している

実は、これまで十分に自己研鑽を積んできたあなただからこそ、こういった悩みを抱えがちです。

 

ぼくも理学療法士として経験の浅いころ、そうでした。

さまざまな知識や手技に関する研修に参加しましたが、担当の患者さんにどう使えばいいのかわからない。

あれこれと検査・測定を行うけれども、あれこれ問題点が出てきて、治療アプローチが定まらない。

もっと勉強しないといけないと思って、また別の研修会に参加する…

といった悪循環だったと思います。

理学療法士として結果を出すのに必要なのは、さらに新しい知識やスキルを身につけることではありません

目の前の患者が抱えている問題点をちゃんと整理する。

その問題点を確証するための検査を選択する。

そして、抽出された問題の解決にもっとも適したアプローチを実践する。

今あなたが持っている知識やスキルを十分に活用するのが大事です。

 

そのために必要なのが、思考を整理するフレームワーク(枠組み)です。

フレームワークをもっておくことで、散在している問題点の時系列や関連性についてスッキリと理解できます。

さらに現在の症状・兆候をおこしている「真の原因」にたどりつき、最短距離で治療アプローチすることができます。

余計な検査や治療が省かれるので、患者さんの負担も大幅に軽減されます。

そうやって結果を出すあなたは、患者さんから全幅の信頼をおかれることでしょう。

 

患者の問題点を系統的に整理し、最適な治療プログラムを組み立てられる2つのフレームワークをご紹介します。

なぜ、理学療法における臨床推論にフレームワークが大事なのか?

臨床推論こそ理学療法士の専門性

天野ら(2014)は、理学療法士の専門性について以下のように述べ、臨床推論の重要性を説いています。

基本動作をはじめとする運動機能障害の原因を見きわめ、理学療法プログラムを考察する評価推論能力

(『理学療法診断に基づく臨床推論の可能性』より)

 

また常盤(2017)は、理学療法を発展させるために

垂直思考(既知の論理など)と水平思考(創造性など)をうまく織り交ぜて、効果的な理学療法の実施に向けた論理を構築していく姿勢が重要

だと述べています(『極める 膝・下腿骨骨折の理学療法』序文より)

 

つまり理学療法士は、目の前の患者の問題解決のために、科学的根拠と患者の心情や個人的・社会的背景をふまえて最適な推論を導いていくことが肝心だといえます。

フレームワークが臨床推論を助ける

では、いざ臨床推論を進めようとしたときに、経験の浅い療法士は何を頼りにすればよいのでしょうか?

臨床推論が個々の理学療法士の能力にゆだねられるのであれば、経験によって差が出てしまい、患者の不利益になってしまいます。

また臨床推論のスキルがてんでバラバラであれば、社会における理学療法士の存在意義や認知も広がっていきません。

 

そこで、経験の浅い理学療法士でも、臨床推論がトンチンカンな方へいかないようにしなければいけません。

そのとき役立つのがフレームワーク。

 

“こうした項目の情報を集めましょう“

“こんなふうに原因と結果を結びつけて考えましょう”

という、大まか「枠組み」「型」があることで、臨床推論を組み立てやすくなります

ぜひ、明日からの臨床推論にフレームワークをお役立てください!

問題点をスッキリ整理する、フレームワーク【仮説カテゴリー、D-ダイアグラム】

仮説カテゴリー

「仮説カテゴリー」はJones MAら(2004)が提唱し、以下の8つの項目を考慮して推論を進めます。

  1. 活動能力および制限、参加能力および制限
  2. 経験にもとづく患者自身の考え
  3. 病理生物学的メカニズム(組織治癒メカニズム、疼痛メカニズム)
  4. 身体機能障害と、それに関連する原因組織
  5. 症状を発生、持続させている関連因子
  6. 身体機能評価および治療における注意・禁忌事項
  7. 対処方法と治療
  8. 予後(肯定的なもの/否定的なもの)
続いて各項目を詳しくご説明します。

1。活動能力および制限、参加能力および制限

臨床推論のスタートは、患者がもっている「活動・参加能力」はどの程度か、またどの程度制限されているのかを把握すること。

さらに、その活動・参加能力の制限が、どの程度患者の苦悩に結びついているのか。

また症状・徴候に影響している「心理社会的側面」がないかを見極めます。

2。経験にもとづく患者自身の考え

患者は疾患を含めてものごとに対する「思考の型(準拠枠、意味パースペクティブ)」を持っています。

また患者のこれまでの疼痛経験や信条、治療に対する期待と不安などが、治癒過程や症状増減に影響を及ぼします。

このような「患者自身の考え」を把握しておくことで、対応がまったく変わります。

3。病理生物学的メカニズム

「生体」としてのひとをみるうえでは、損傷を受けた組織の病理や治癒過程、症状の機序について理解しておく必要があります。

そうした病理生物学的メカニズムには、「組織治癒メカニズム」と「疼痛メカニズム」があります。

組織治癒メカニズム

組織の損傷から治癒に至るプロセスが「炎症」です。

炎症は炎症期、増殖期、成熟期に分類され、正常な治癒過程が予測されます。

正常な治癒過程と患者の状態を比較することで、回復過程が正常なのか、遅れているのかを推察します。

疼痛メカニズム

痛みの生じるメカニズムは、「入力系」「処理系」「出力系」の3つに分類されます(「成人の生命体モデル」、Giffordより)。

それぞれ、次のような痛みが該当。

  • 入力系の問題:侵害受容性疼痛、末梢神経障害性疼痛
  • 処理系の問題:中枢神経障害性疼痛
  • 出力系の問題:体性運動神経系、自律神経系、神経内分泌系、免疫系を介して発生するもの

患者の症状発生機序がどれに当てはまるかによって、選択される最適な治療プログラムが変わります。

また、末梢神経や中枢神経の感作によって引き起こされるメカニズムや、不安や情動が疼痛に与える影響なども考慮すべき。

4。身体機能障害と、それに関連する原因組織

痛みの原因組織と、それに関わる機能障害を特定。

次の3つの側面から患者の苦悩に影響を与えている要因に優先順位をつけます。

  1. 受傷前からあった人的、生体力学的、医学的、社会的、遺伝的、環境的因子
  2. 受傷に至った直接の原因(受傷機序)
  3. 組織の損傷による症状・徴候、活動に影響を及ぼす機能的制限

 

例えば、ある膝前十字靱帯(ACL)損傷した女性の場合、次のように整理できます。

  1. 女性、FTA増大、生理周期
  2. ジャンプ着地において後方重心、体幹傾斜・骨盤後傾位となり、膝関節過伸展・外反位を生じ、大腿骨顆間窩でACLが過伸張されて断裂に至った
  3. 疼痛、膝折れ、血腫、脛骨前方不安定性、ハムストリング弱化 など

 

なお受傷のメカニズムと身体機能障害を結びつけるには、「還元論的推論」「全体論的推論」の両方から考えることが大事です↓

5。症状を発生、持続させている関連因子

痛みの原因組織のほかに、患者の苦悩を持続、助長させている因子がないか。

とくに生活習慣の乱れストレスは、自律神経機能や免疫機能、内分泌機能を介して症状変化に影響を及ぼします。

夜更かしや睡眠不足、暴飲暴食や不規則な食事リズム、運動不足/オーバーワークなどを聴取しましょう。

また個人の精神心理的要因、職場や家族関係などの対人交流、生活環境、就労動作などが影響している場合もあります。

6。身体機能評価および治療における注意・禁忌事項

目の前の患者が、理学療法士による対応の適応なのかどうか

あるいは医学的管理や安静が優先されるべきか。

適応となれば、理学的検査や治療、運動療法を行ううえでの注意・禁忌事項を確認します。

7。対処方法と治療

徒手療法・運動療法・物理療法・認知行動療法…など、あらゆる選択肢から目の前の患者にとって最適な解決策を選択します

機能障害や活動・参加制限に影響する「心理社会的側面」もお忘れなく。

8。予後(肯定的なもの/否定的なもの)

組織治癒過程に関する科学的根拠(エビデンス)に加え、理学療法士の経験も加味して予後予測します。

予後の特徴は、治癒過程を促進する「肯定的なもの(positive)」と、組織治癒を遅延させる「否定的なもの(negative)」の両面から考えましょう。

 

☆理学療法士が臨床推論を学ぶバイブルがこちら🔽基礎から臨床例まで豊富な内容です。

特性要因図とD-ダイアグラム

産業界における品質管理(Quality Control:QC)の手法として「特性要因図があります

その樹状の形状をしていることから、別名「魚の骨図(フィッシュボーン図)」とも。

創案したのは、日本における“品質管理の父”と賞される石川 馨 氏です。

「特性」と「要因」の関係を系統的に直線で結んで表されます。

 

品質管理における特性要因図では、次の「4つの特性(4M)」から問題を分析します。

  • 人(Man)
  • 機械(Machine)
  • 材料(Material)
  • 方法(Method)

各要因についてさらに、「それは、なぜ?」「なぜ?」「なぜ?」…と深掘りしていって、根本的な問題点を絞り込んでいきます。

そうしたなぜなぜ分析の結果、行き着いた先が1番に優先して改善に着手する事項となります。

 

☆品質管理(QC)の問題解決思考は、TOYOTAをはじめ日本の会社が大きく発展する礎となりました。

その考え方は理学療法士の働き方、組織づくりにも必ず役に立ちます!

患者の問題点について、評価結果と症状のつながりを一連の流れで理解するのに有効なのが、「D(disease)-ダイアグラム」です。

D-ダイアグラムは、嵩下(2018)が提唱し、特性要因図をもとに患者の臨床推論に応用されたもの。

  • 特性:解決すべき患者の抱える症状・徴候
  • 要因:特性につながる「病態」「禁忌・リスク」「機能障害」「関連因子」

として整理していきます。

Dダイアグラム

例えば、「腰背部痛を訴える患者」について記載したのがこちら🔽

結びに

いかがでしょうか。

臨床推論に役立つフレームワークとして、「仮説カテゴリー」「D-ダイアグラム」の2つをご紹介しました。

目の前の患者について「この項目、要因にあてはまることは何かな」と考えることで、問診や理学検査を選択し、モレなく、ダブリなく問題点を把握することができます。

解決すべき「真の原因」がわかれば、最適な治療戦略に最短でたどりつけます。

 

ただフレームワークは、決してゴールの定まった「パターン」ではありません

その中身(基礎医学、機能解剖学、運動学、評価、スキルなど)を充実させていくためには、やはり努力が必要です。

そして、“目の前の患者さんと一所懸命に向き合う”。

 

そうして臨床推論を磨いていただければ嬉しいです。

ぼくも引き続き、努力します。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

参考書籍

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