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臨床推論を助ける思考の枠組み〜「仮説カテゴリー」と「D-ダイアグラム」〜

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療法士に成り立ての頃,いざ患者と対面してアタフタした経験はありませんでしたか?また,経験を積んでも,出会う患者は病態から原因から社会的背景から,一人ひとり異なります.脈絡のないコミュニケーションやその場で思いつきの検査・測定をしていては,真に症状発生プロセスを明らかにし,解決策を実行していくのは難しいでしょう.

私もそうでした.さまざまな知識や手技に関する研修に参加しましたが,それらのつながりがわからない.あれこれと検査・測定を行うけれども,結局どれが真の問題解決なのか整理できていませんでした.

療法士が患者の問題点を整理するうえで基盤となる枠組みがあると,それを軸に問診を展開し,そこで得られた情報から仮説を立て,理学的検査によって検証することができます.

そこで今回は,患者の問題点を系統的に整理し,適切な治療プログラムを組み立てていくのに役立つ枠組みをご紹介します.

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患者の問題点を整理するための,思考の枠組み

ご紹介する思考の枠組みは,「仮説カテゴリー」「D(disease)−ダイアグラム」です.

仮説カテゴリー

「仮説カテゴリー」はJones MAら(2004)が提唱し,以下の8つの項目を考慮して推論を進めるものです.

  1. 活動能力および制限,参加能力および制限
  2. 経験にもとづく患者自身の考え
  3. 病理生物学的メカニズム(組織治癒メカニズム,疼痛メカニズム)
  4. 身体機能障害と,それに関連する原因組織
  5. 症状を発生,持続させている関連因子
  6. 身体機能評価および治療における注意・禁忌事項
  7. 対処方法と治療
  8. 予後(肯定的なもの/否定的なもの)
各項目について,それぞれ以下に詳しくみていきます.

活動能力および制限,参加能力および制限

患者がどのような活動および参加能力を有しているのか,またどの程度制限されているのか.その活動および参加能力の制限が,どの程度患者の苦悩に結びついているのか.心理社会的側面が症状・徴候に影響しているのかを見極めます.

経験にもとづく患者自身の考え

患者は疾患を含めてものごとに対する“思考の型(準拠枠,意味パースペクティブ)”を持っています.また患者のこれまでの疼痛経験や信条,治療に対する期待と不安などが治癒過程や症状増減に影響を及ぼすことがあります.このような患者自身の考えを把握しておくことで,対応が変わります.

病理生物学的メカニズム(組織治癒メカニズム,疼痛メカニズム)

組織治癒メカニズムの一つとして,炎症があります.炎症は炎症期,増殖期,成熟期に分類され,正常な治癒過程が予測されます.正常な治癒過程と患者の状態を比較することで,回復過程が正常なのか,遅れているのかを推察できます.

疼痛メカニズムは,入力系・処理系・出力系に分けられ,患者の症状発生機序がどれに当てはまるのかを考えることで効果的な治療プログラムを立てられます.また,末梢神経や中枢神経の感作によって引き起こされるメカニズムや,不安や情動が疼痛に与える影響なども考慮します.

*疼痛メカニズムで分類される疼痛発生機序はこちら↓

身体機能障害と,それに関連する原因組織

痛みの原因組織を特定することは治療の大前提です.それに加え身体機能障害を考えるうえでは,次の3つの側面から患者の苦悩に影響を与えている要因に優先順位つけていきます.

  1. 受傷の前段階から有していた人的,生体力学的,医学的,社会的,遺伝的,環境的因子
  2. 受傷に至った直接の原因(受傷のメカニズム)
  3. 受傷(組織損傷)によって生じた症状・徴候,活動に影響を及ぼす機能的制限

ある膝前十字靱帯(ACL)損傷の患者を例にあげると,ⅰ:女性,FTA増大,生理周期. ⅱ:ジャンプ着地において後方重心,体幹傾斜・骨盤後傾位となり,膝関節過伸展・外反位を生じ,大腿骨顆間窩でACLが過伸張されて断裂に至った. ⅲ:疼痛,膝折れ,血腫,脛骨前方不安定性,ハムストリング弱化など.

また受傷のメカニズムと身体機能障害を結びつけるには,「還元論的推論」「全体論的推論」の両方から考えることが有効です↓

症状を発生,持続させている関連因子

痛みの原因組織以外に,患者の苦悩を持続,助長させている因子の有無を把握します.とくに生活習慣の乱れストレスは,自律神経機能や免疫機能,内分泌機能を介して症状変化に影響を及ぼします.夜更かしや睡眠不足,暴飲暴食や不規則な食事リズム,運動の不足や過剰などを聴取します.

また個人の精神心理的要因,職場や家族関係などの対人交流,生活環境,就労動作などが影響している場合もあります.

身体機能評価および治療における注意・禁忌事項

目の前の患者が療法士による対応の適応なのかどうかを,まず判断します.適応となれば,理学的検査や治療,運動療法を行ううえでの注意・禁忌事項を確認します.

こちらもご参考いただくと,リスク判断について理解が深まります→『セラピストのリスク判断には「SIN」と「レッドフラッグ」が役立つ』

対処方法と治療

徒手療法・運動療法・物理療法・認知行動療法…など,あらゆる選択肢から目の前の「この人」にとって最適な問題の解決方法を選択します.機能障害や活動・参加制限に影響する心理社会的側面も考慮することが重要です.

予後(肯定的なもの/否定的なもの)

組織治癒過程に関する科学的根拠(エビデンス)に加え,療法士の経験も加味して予後を推察します.予後の特徴は,治癒過程を促進する「肯定的なもの(positive)」と遅延させる「否定的なもの(negative)」とに分けて,両面から考えます.

 

D-ダイアグラム

患者の抱える問題について,その根本原因や関連因子を一連の流れで理解するのに有効なのが,「D(disease)-ダイアグラム」です.

D-ダイアグラムのもとになっているのは,産業界における品質管理の手法として汎用される「特性要因図(とくせいよういんず)です.

特性要因図は,日本における品質管理の父と賞される石川 馨 氏が創案した,特性と要因の関係を系統的に線で結んだ図のことです.その樹状の形状から「魚の骨図(fish bone)」とも呼ばれます.

品質管理(QC)における特性要因図では,一般に4つの特性(4M);人(Man),機械(Machine),材料(Material),方法(Method)に分けられます.各要因についてさらに,「それはなぜ?」「それはなぜ?」「それはなぜ?」…と深掘りしていって,根本的な問題点を絞り込んでいきます.そうしたなぜなぜ分析の結果,行き着いた先が優先して改善に着手する事項となります.

特性要因図を患者の臨床推論に応用したものが,嵩下の提唱する「D(disease)-ダイアグラム」です.D-ダイアグラムでは,特性を解決すべき患者の抱える症状・徴候とし,その特性につながる要因を「病態」「禁忌・リスク」「機能障害」「関連因子」として記録します.

Dダイアグラム

例えば,腰背部痛を訴える患者について,下図のように書き込んでいくことで推論を進めていきます.このように,考えられるすべての選択肢を俎上に上げ,そこから絞り込んでいくと見落としが少なくなります.

結びに

患者の問題点を整理するのに役立つ枠組み(「仮説カテゴリー」「D-ダイアグラム」)をご紹介しました.

目の前の患者について「この項目,要因にあてはまることは何かな」と考えることで,問診や理学検査を選択し,漏れなく,ダブリなく患者の抱える問題を把握することができます.解決すべき「真の原因」がわかれば,それに応じた適切な治療戦略を立てることにつながります.

ただこれらは手法の一つとして参考にしつつ,“目の前の患者さんと一所懸命向き合う”ことが大前提だと思います.

最後までお読みいただき,ありがとうございます.あなたの臨床推論にお役立ていただければ幸いです.

*「D-ダイアグラム」の実践例や「特性要因図」について詳しくは,こちらでご紹介されています↓

 

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