こんにちは、大山ふみあき(@ThanksDailylife)です!
あの患者は意欲がないからリハビリテーションが進まない
と悩んでいませんか?
ぼくもそうでした。
でも、行動への意欲を引き出すにはちゃんとコツがあるんですね!
ADL向上や運動療法を主体的に進めるうえで、療法士が使える「意欲を高める」方法をご紹介します。
参考にするのは「行動分析学」。
行動分析学はハーバード大学の心理学者BF Skinnerが創設した学問で、心の働きを個人の内的なものではなく、「個人と環境の相互作用のあり方」だと考えます。
現在では、より良いヒューマンサービスを目指す「応用行動分析」として発展しています。
ぜひふだんの臨床業務にご活用いただければ嬉しいです。
「意欲」を高める「行動の法則」
なかなかベッドから起き上がらなかったり、熱心に運動に取り組まなかったりすれば、その人は「意欲のない人」とみられがちです。
しかし「意欲がないから、やらない」のだとレッテルを貼ってしまっては、それ以上の進展や介入の工夫を妨げてしまいかねません。
行動に着目した「ABC分析」
応用行動分析学では、意欲は“個人と環境との相互作用の結果”だととらえて、現れた行動を分析します。
「行動」に着目して意欲を評価するのが、ABC分析です。
ABC分析の考え方がこちら⏬
- 人が何かしら行動をおこすとき、それに先だつ“きっかけ(=先行刺激[antecedent stimulus:A])がある
- 先行刺激によって、行動[behavior:B]が引き起こされる
- 行動の結果として環境の変化(=後続刺激[consequent stimulus:C])がもたらされる
- 「後続刺激」は、その前の行動を「増やす」「減らす」「変化させない」などの作用(=機能)をもつ
例えば次のような状況です。
あなたも身に覚えがないでしょうか?
小学校3年生の子どもが、先生から出された九九の宿題(=先行刺激)をすべて覚えた(=行動)。
その結果、先生から褒められ(=後続刺激)、その後も熱心に算数を勉強するようになった(=後続刺激の機能)。
このような【先行刺激→行動→後続刺激】を一括り(=行動随伴性)として、適切な行動を引き出す方法“行動の法則”を考えていきます。
“行動の法則”で重要なのは、次のサイクルで分析することです。
- 先行刺激によって見通しがもてる
- 後続刺激としてポジティブな結果が得られる
- 望ましい行動が増える
- 日常生活で安定して望ましい行動が現れる
つまり「意欲」とは、「環境の中で望ましい行動が安定して出現している状態」だと考えられます。
「意欲の低い」状態とは?
このように意欲が環境に大きく影響を受けるものだということを、「意欲の低い」とみられる状態の事例からみていきましょう。
- 生徒が先生に分からない問題の相談をしたけれど、その先生は生徒の話を熱心に聞かなかった。それ以降、その生徒は先生に相談や質問をしなくなった。
- 理学療法士の実習生が一所懸命考えたレポートを書いていった。それを見たスーパーバイザーは、そもそも関節可動域の測定方法がなっていないと注意した。その後実習生は、欠席や遅刻が多くなった。
- 高齢の患者で車イスからの移乗動作の方法を覚えられず、時間がかかっていた。忙しい職員は本人が動作をやりきるのを待っていられず、移乗はいつも全介助となった。次第に患者は自分から車イスを操作しようとせず、自発的に周りの人たちとも関わろうとしなくなった。
いかがでしょうか?
ABC分析で行動をみると、一概に「本人の意欲がないから、ちゃんとやらないんだ」とは決めつけられない事態もあるのではないでしょうか。
「意欲」を高める3つの条件
では「意欲を高める」には、どうすればよいのでしょうか。
先ほどの「意欲が低い」とみられる逆の対応をすればよいことになります。
つまり、意欲を高める条件は次の3つ。
- 先行刺激として見通しが明確に設定される
- すこしでも自分で達成できそうな行動がターゲットとなる
- 行動したことで褒められた、うまくいった、気持ちよくなったという経験が繰り返される
リハビリ意欲を高める3つのポイント
次に意欲を引き出す「行動の法則」を、リハビリテーションに生かす方法を考えていきます。
適切な先行刺激を用いる
引き出したい行動の先行刺激となるのは、「何をしたら、どういうポジティブな結果が得られるかという見通し」を対象者にわかりやすい形で提示しておくことです。
その活動やその一日の予定に加えて、1週間、1ヶ月といった長期にわたる見通しを伝えたり、客観的な目標値を決めたりしましょう。
(例「この運動をしながら、1ヶ月後に20分歩く、3ヶ月後には1時間歩いて旅先の散策をしましょう」など)
入院中に離床を促したい高齢者であれば、
起きてベッドに座れたら、車イスに乗って、談話室に行きましょう。談話室にいけば、仲のよい○○さんとお茶しながらお喋りできます。自分で動けるようになれば、ご家族がお見舞いに来られたときに一緒に散歩をすることができます
など、起きて運動することがどんな達成感や満足度をもたらすのかを繰り返し説いていきます。
課題分析とシェイピングで目標に近づく
実際に行動を起こそうとしても、一度ではターゲット行動(歩く、着替える、食事する、手芸品を作るetc)を遂行しきれないこともあります。
その場合は、一歩手前の、より小さな行動要素に分解し(=課題分析)、一つ一つの行程を徐々に目標へ近づけていく(=シェイピング)方法をとりましょう。
ベッドからの起き上がりであれば、「右膝を立てる→左膝を立てる→腕への誘導からベッド手すりにつかまる→身体を横向きにする→・・・」と、一つずつ小さな行程を踏んでいきます。
行動したらすぐに、十分な後続刺激(強化刺激)を提供する
意欲を高めるうえで、対象者が行動したら、すぐに後続刺激ー行動を増やす働きのある「強化刺激」ーを与えることがもっとも重要です。
療法士や他スタッフ、家族、すこしでもうまくできたことを十分に褒めるのです。
強化刺激は、さまざまな感覚に働きかけられるのが理想。
強化刺激となるのは、食物や水、性的刺激、痛み・不快からの開放など(種の保存に必要なもの)、家族の注目やお金、地位、賞賛などがあります。
できる行動が増え、行動がスムースになれば、今度は行動そのものが内的報酬となります(うまくいく、気持ちいい/(^^)/!!)。
そうすると自然に、主体的に行動していく好循環が生まれます。
結びに
患者が療法士の指示した行動に沿ってもらえないとき、頭を悩ましますよね。
でも「あの人は意欲がないからできない」とレッテルを貼ってしまっては、そこまで。
療法士として関わるうえでは、「ぼくたちの介入方法(刺激)が対象者の適切な行動を引き出せているかどうか」に気を配り、自発的な行動を引き出すような刺激の与え方を工夫していく。
つまり、意欲が高まるような環境との相互作用をセッティングしてみてはいかがでしょうか。
ぜひあなたの臨床業務にお役立ていただければ嬉しいです。
参考
- 山本淳一:リハビリテーション「意欲」を高める応用行動分析-理学療法での活用-。理学療法学41:492-498、2014。
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