想像力を発揮してヒット商品を生み出すのは、一部の天才だけではなく、誰しもふさわしい練習を積むことで可能になる、といわれたら、ぜひやってみたくないでしょうか。
本書『クリエイティブ・スイッチ(アレン・ガネット、早川書房)』の目的は、想像力やクリエイターに関する“神話”を暴くことだと著書はいいます。
この“神話”とは、ベストセラー小説の執筆や名画の制作、爆発的ヒットするモバイルアプリなど、あらゆるヒット商品・サービスは、「突然のひらめきがクリエイターの成功を左右する」「一握りの“天才”たちの専売特許」だと思われていることです。
「神童」といわれたモーツァルトや「ハリー・ポッター」シリーズを書いたJ・K・ローリングなどの創作逸話で語られる、いわゆる「ひらめき説」です。
クリエイティブな能力が生まれ持った才能によるとすれば、諦めざるをえません。
しかし、、、
想像力を発揮する“やり方”がある
本書では、そんなひらめき説に対して明確にNOを唱え、想像力を発揮するためのプロセスを明らかにしてくれています。
ヒット作品やヒット商品の背景にはれっきとした科学がある。
現代の神経科学の知識を使えば、人気商品を生み出すのに必要な“ひらめき”の瞬間を読み解き、しかも意図的に生み出すことさえできてしまうのだ。(まえがきより)
著者は、数多くのクリエイターたちに直接インタビューしたり、成功のプロセスを調べたりして、成功のパターンを見つけたといいます。さらに神経科学に関する研究データをもとにして、その裏付けをとっているのです。
創造曲線の法則
創造力に関する成功のパターンとは、「創造曲線の法則(クリエイティブ・カーブ)」です。
トレンドに関していうと、人間の心理には一見すると相矛盾するふたつの衝動が潜んでいる。
面白いことに、人間はなじみのものを求めると同時に、目新しいものを求めるのだ。(38ページより)
このふたつの相反する衝動どうしの関係を図示したものが、著者のいう「創造曲線(クリエイティブ・カーブ)」です。
人間はなにかに接すれば接するほど、そのものをどんどん好きになっていくが、やがて好意の度合いは頂点を迎える。
その時点を過ぎると、「接しすぎ」の状態となり、そのあとは接すれば接するほど好意を失っていく。(39ページより)
つまり、ヒット商品やサービスを生み出すためには、「なじみ深さ」と「目新しさ」のちょうどバランスのよいスイートスポットを探り当てることが重要なのです。
想像力を高める4つの法則
では、創造曲線のスイートスポットを見つけるためには、どうすればよいのでしょうか。
創造曲線のスイートスポットを見極め、ヒットを生み出す方法として、次の4つのプロセスがあります。
- 大量消費
- 模倣
- クリエイティブ・コミュニティ
- 反復
「大量消費」とは、自分の業界に関する第三者のコンテンツを積極的に吸収することです。具体的には、起きている時間の20%を消費活動にあてることが薦められています。大量消費によって、人々にとってほどよくなじみのあるアイデアを見分けられるようになります。
次に、「模倣」によって業界のイロハや制約を学び、ほどよい目新しさを付け加えるヒントを得る。
さらにプロジェクトの遂行に手を貸してくれるチーム(クリエイティブ・コミュニティ)をつくることも欠かせません。なお創造活動に必要なコミュニティには、「一流の教師」「相補的なパートナー」「創作の女神」「卓越したプロモーター」という4種類の役割があるといいます。
最後に、顧客からのフィードバックやデータを活用して、実行と改善を反復していくことで、望ましい完成形へと近づけることができます。
本書を読んでの気づき
本書では、“神話”として語られてきた創造力のプロセスを科学として明らかにしてくれています。
言い換えれば、“成功したクリエイターに共通したやり方”をすれば、私たちにもヒット商品やサービスを生み出す“可能性がある”、ということです。
“やり方”とは、日々の習慣であり、今すぐに実践できそうなものばかりです。
しかも、孤高の努力や山奥の修行をしろといっているのではありません。
毎日、自分の業界に関する大量の新作や情報を仕入れ、ひらめきの土台をつくる。
過去の成功例を模倣することで、王道(人々になじみのあるもの)を熟知し、目新しいものとのバランスをとる。
身の回りのすべての人やできごとから学び、教えを受ける。
製作途中のアイデアを人に見せてフィードバックをもらい、改善する。
このようなサイクルを回し続けることで、創造活動を成功させる可能性が高まります!
本書を読むと、「私も今からやってみよう!」と勇気づけられます。しかも具体的にやることは、わかっているのです。
文章から音楽、アプリ、食品まで、ヒットを生み出したいすべての働く人にオススメの一冊です。