こんにちは、大山ふみあき(@ThanksDailylife)です。
- ちゃんと説明したはずの病態やリハビリ内容を患者が理解していない
- 目指すゴールがいつの間にか食い違っている
- 患者の言っていることが、ころころ変わる
- 患者本人が希望したリハビリ内容なのに、モチベーションが上がらない
そういった、患者コミュニケーションでの違和感や悩みを感じたことがありませんか?
整形外科で13年間働いていたぼくもそうでした。
こちらとしては持っている情報をちゃんと伝えて、本人の同意も得たはず。
それなのに、イマイチ本人の理解が乏しい。
方向性が変わってきている…
そんなモヤモヤした思いを抱えることが少なくありませんでした。
いま、リハビリ現場での患者コミュニケーションとして、シェアード・ディシジョン・メイキング(Shared Decision Making:SDM)が推奨されています。
SDMは「共有意思決定」や「協働的意思決定」と訳され、従来の「インフォームド・コンセント:IC」よりも患者の自己決定権が強くなった概念。
SDMでは評価や治療を決めるプロセスを患者と医療者で共有するといった、「双方向のやり取り」を重視しています。
なぜなら意思決定の際に、対象者が医療者の話す内容を十分に理解しておらず、検査や治療の主旨を認識していない場合が少なくないから。
患者コミュニケーションに迷っていた当時のぼくもSDMを学んでから、目標設定やプログラム進行が格段にしやすくなりました。
そこで今回は、SDMの概念と活用ステップについてご説明します。
インフォームド・コンセント(IC)からシェアード・ディシジョン・メイキング(SDM)へ
“検査内容や治療方針を患者に説明して同意をえるのであれば、ICがあるじゃないか”、と思われるかもしれません。
たしかにICの普及によって、「医療者が患者に治療方針を説明し、患者の同意を得たうえで治療をおこなう」というプロセスが一般化しました。
しかしその一方で、ICの問題点も指摘されています。
インフォームド・コンセントの問題点
- 医療者が対象者(患者、サービス利用者)に対して一方的に説明し、単に同意の署名を得るだけになっている
- 患者の意志を反映するという目的が達成されていない可能性
- 患者に説明して医療を行った証明として、医療者の法的な免責になっている可能性
*参考:中山建夫:患者と医療者の協働意思決定と診療ガイドライン。
つまり選択肢がいくつかある治療法や予防法について、1つの選択肢のみが提示されるのでは、患者の判断材料が足りません。
しかも患者の希望や意向が反映されにくい。
なので、対象者とセラピストが治療に向かって協同して意思決定を行ううえで、ICで十分とはいえません。
例えば、リハビリテーションの場面で陥りがちなICの例がこちら↓
療法士はエビデンスを参考に筋力トレーニングの必要性を説いているのでしょうが、自分の考えのみを押しつけている印象があります。
もし患者さんが、「そうは言っても、自分はこうしたいのに…」といった不満を抱いていたら、積極的な運動療法をおこなってはくれないでしょう。
SDMは、患者が主体的に参加するプロセス
一方で、SDMの定義はこちら↓
治療の選択肢(オプション)、益と害、患者の価値観、希望、状況をふまえ、臨床家と患者が一緒に健康に関わる意思決定に参加するプロセス
*Hoffmann TC, Montori VM, Del Mar C:The connection between evidence-based medicine and shared decision making.JAMA. 312(13):1295-6. 2014
とくに「複数の選択肢と、そのメリット/デメリットが提示される」、
「患者自身の価値観が尊重される」、
「患者と医療者、双方の考えをふまえて、協同で意思決定する」、
「患者の自己決定を促す」
のがポイント。
先ほどのリハビリテーションの場面でいうと、次のようなコミュニケーションになります↓
いかがでしょうか。
先ほどの話し方よりも、必要ないくつかの情報を提示したうえで、患者の意向をふまえ、自己決定を促そうとする様子がわかります。
治療方針の決定に納得した患者はリハビリに能動的になり、行動変容をおこしてくれます。
こうしたSDMの概念をリハビリ現場に積極的に活用していきましょう。
【実践】SDMの9ステップ
リハビリの意思決定において、セラピストと患者とで認識のズレがないように、Kristonらが提唱する「SDMの9ステップ」が有効です。
- 意思決定の必要性を認識する
- 両者が対等なパートナーと認識する
- 可能なすべての選択肢を同等なものとして伝える
- 選択肢のメリット/デメリットを伝える
- 医療者が対象者の理解と期待を吟味
- 意向・希望を提示する
- 選択肢と合意に向けて話し合う
- 意思決定を共有
- 共有した意思決定のアウトカムを評価する時期を相談する
*Kriston L,et al:The 9-item shared decision making questionnaire (SDM-Q-9).Development and psychometric properties in a primary care sample.Patient Educ Couns 80:94-99,2010
とくに、すべての選択肢を俎上にのせたうえで、それぞれのメリット/デメリットを把握する。
今後の希望に応じて、最適なプランを選択。
それをセラピストと患者で双方向にやり取りしながら、意思決定のプロセスを進めるのが肝心ですね。
プログラム進行中も、その都度都度でお互いの認識を“繰り返し確認する”必要があります。
まとめ
- 患者中心の医療を実践するうえで、患者と医療者が検査や治療に関する意思決定の過程を共有するのが肝心。
- SDMは患者自身の自己決定を尊重する、ヘルスコミュニケーション手法として推奨される。
- SDMにおいて医療者は、複数の選択肢を提示し、それぞれのメリット/デメリットを説明する。
- 医療者は、患者の希望や価値観、大事にしたいと思っている考えなどを聞きとる。
- 患者と医療者は、選択肢と目指す目標について話し合う。
- 医療者の情報(エビデンスや経験)と患者の情報(好みや価値観)の両者をふまえて、選択肢を吟味し、協力して意思決定する。
- SDMは患者を中心としたチーム医療の実践においても、関係者のコミュニケーション改善に役立つ。
- 意思決定の過程を共有することで、患者自身の能動的なとりくみや行動変容につながる。
最後に医療者として、次の言葉を肝に命じておく必要があるでしょう。
SDMのないEBMは、エビデンスによる圧制(evidence tyranny)に転ずる(Hoffmann、2014)
どんなに科学的に実証された評価や介入であっても、患者自身の満足がなければ、それは医療者の自己満足。
むしろ患者にとってのストレスや不利益になりかねません。
つねにお互いの認識にズレが生じていないか、丁寧にコミュニケーションをとることが大事ですね。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
明日からのあなたの臨床活動にお役立ていただければうれしいです。
参考書籍
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