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運動セルフ・エフィカシーを高めるために提供したい「情報源」はコレ!

定期的な運動・スポーツや積極的な身体活動に関する行動の変容段階は、「運動セルフ・エフィカシー」の高さと有意に関連することが報告されています。つまり、行動変容のステージモデル(以下、運動ステージ)において、より後期のステージにいる人では運動セルフ・エフィカシーが高い結果を示していたのです。

*運動・スポーツの行動変容の段階について詳しくはこちらをご参照ください→「運動・スポーツを継続する自信−“運動セルフ・エフィカシー”と行動変容の関係」

では、運動セルフ・エフィカシーを高めるには、どのような情報提供や介入が有効なのでしょうか?

今回は、運動セルフ・エフィカシーに影響を与える因子についてご紹介します。

ご自身の運動習慣や、対象者に運動・スポーツをすすめる介入のきっかけとしてお役立ていただければ嬉しいです。

セルフ・エフィカシーを生み出す4つの情報

セルフ・エフィカシーは次の4種類の情報源から生み出されるとされています。

  1. 遂行行動の達成(目標とする振る舞いを実際に行い、成功・失敗体験をもつ)
  2. 代理的経験(他人が目標行動を実践する様子を観察する)
  3. 言語的説得(自信や他者から肯定的な言語の暗示を受ける)
  4. 生理的・情動的喚起(目標行動に伴う身体的・感情的な変化に気づく)

運動セルフ・エフィカシーに影響する要因

運動セルフ・エフィカシーは、その人の年齢層や性別、社会的要因(人的支援)によって異なることが明らかにされています。

年齢層

行動変容の段階と運動セルフ・エフィカシーが関連することは明らかですが、その変化の様子は年齢層で異なります。

例えば、大学生や中年者では運動ステージの移行に伴って運動セルフ・エフィカシーが直線的に向上する(岡、2003)。一方で高齢者では、ステージの後期(運動習慣のかなり定着した維持期)になってはじめて運動セルフ・エフィカシーの向上がみとめられた(高井、2012)。など。

大学生を対象とした研究では、運動プログラムにおける一過性のポジティブな感情(高揚感)が、プログラム終了時の運動セルフ・エフィカシーの向上に寄与したといいます(荒井、2010)。

運動習慣のない高齢者にとって健康活動を継続するには、近隣の人的ネットワークの存在、うつ傾向や転倒に対する自己効力感などが運動セルフ・エフィカシーに関係するとされます。運動継続により精神的健康が得られた結果、維持期の段階になって運動セルフ・エフィカシーの向上をもたらすという過程が考えられています。

性差

男性よりも女性のほうが運動ステージのより前期(無関心期、関心期)にいる人の割合が高い、行動変容プログラムの効果は女性よりも男性で高い、男性は女性よりも運動セルフ・エフィカシーの高い傾向にあるなどの研究報告があります。

運動セルフ・エフィカシーに影響する因子に男女差があります。男性では、運動セルフ・エフィカシーが運動継続や運動習慣の獲得についての運動ステージを予測する因子となる。女性の運動ステージにおいては、運動セルフ・エフィカシーよりも、周囲の人的支援や日常の健康行動がより強く影響するなどが報告されています。

つまり女性においては、運動・スポーツそのものが目的というよりも、食事や睡眠などを含めて包括的な健康作りの一環として運動・スポーツを実施している。周囲の人間関係も運動継続に関係しているなどの可能性が考えられます。

男女に共通する因子もあります。「過去の運動・スポーツ実施において楽しさや満足感といった肯定的な体験をしている」ことや「歩行数」「健康状態の自己認知」などは男女いずれも運動セルフ・エフィカシーを高める因子とされます。

つまり日常の歩行数が多く、同年代の他者と比較して自分は良好な健康状態だと認知していることが、運動セルフ・エフィカシーを高めるのに役立っていると考えられます。(常行、2011)

社会的要因

個人の資質だけでなく、周囲の「人的支援」も男女ともに運動ステージに影響を与える因子として重要です。指導者や家族、友人、仲間などのインフォーマルな人的支援に加え、医師や保健師、運動指導者などのフォーマルな人的支援の重要性も増しています。

年齢、性別
年齢層や性別によって運動セルフ・エフィカシーの変化が異なります。

各ステージにおいて運動セルフ・エフィカシーに影響を与える情報源

行動変容の各段階に応じて適切なサポートをするために、運動ステージと運動セルフ・エフィカシーの情報源(上記した4つの情報源)との関連性を調査した研究(前場、2012)があります。研究対象者は高齢者ですが、世代を通して行動変容のきっかけとなる情報源を考えるヒントとなるのではないでしょうか。

本研究では、無関心期から準備期にかけては、ステージが進行した人ほど運動セルフ・エフィカシーの情報源をより多く得ている。一方で、少なからずすでに運動習慣のある人では、必ずしも運動セルフ・エフィカシーの情報源の程度に差はない。後期ステージ(準備期以降)にいる人は、前期ステージ(無関心期、関心期)にいる人と比べて、各情報源をより多く得ていることなどが明らかにされています。

運動ステージの各段階において重要視されていた情報源は以下の通りです。

  • 無関心期:遂行行動の達成。 
  • 関心期〜準備期:遂行行動の達成、生理的・情動的喚起
  • 実行期:遂行行動の達成、生理的・情動的喚起、代理的体験
  • 維持期:生理的・情動的喚起、言語的説得

この傾向をヒントにして、その人のいる運動ステージに応じた運動指導を考えられるのではないでしょうか。例えば、無関心期の人に対しては、負荷強度の低い身体活動(ふだん買いものをするスーパーで歩く、洗濯や掃除などの日常生活)から始めて、段階的に成功体験を積んでいく(=遂行行動の達成)。

関心期から準備期の人には、遂行行動の達成に加えて、運動実施による身体的・精神的なメリットを再認識したり、運動に伴う不快感(疲労や痛みなど)を除去したりする(=生理的・情動的喚起)。

実行期の人には、本人と類似した他者が運動を行っている場面を観察する機会をつくり、モデリングする(=代理的体験)。

維持期の人では他ステージと違って、遂行行動の達成が有効ではなくなります。そこで肯定的な自己教示や他者からの言語的な励まし(=言語的説得)、運動実施による身体的・精神的なメリットの気づき(=生理的・情動的喚起)を促すなどが有効とされます。

運動セルフ・エフィカシー
運動・スポーツや身体活動の体験で、“快感・高揚感”は運動セルフ・エフィカシーを高めます。

結びに

運動セルフ・エフィカシーを喚起するのに必要な情報源についてまとめ、行動変容の各段階において重要視される情報源の違いをご紹介しました。

運動セルフ・エフィカシーの作られ方は、その人の性別や年齢、生活背景、ニーズなどによって異なります。それぞれのステージや個々人の特性をふまえて情報提供することで、適切に運動セルフ・エフィカシーを高め、運動継続につなげていければと思います。

また慢性疼痛疾患において運動セルフ・エフィカシーが高まることで、ストレス反応の表出が減り、症状コントロールに役立つことも報告されています。

このように運動セルフ・エフィカシーを高めるような戦略(情報提供)によって、運動・スポーツや豊富な身体活動の継続、ひいては心身の健康作りにつながると期待されます。

参考文献

  • 前場康介 他:高齢者における運動セルフ・エフィカシーの情報源および運動変容ステージとの関連。行動医学研究18:12-18、2012.
  • 常行泰子 他:高齢者の運動ステージと運動セルフ・エフィカシーに影響を及ぼす健康要因と社会心理的要因に関する研究。体育学研究56:325-341、2011。
  • 高井逸史:都市在住の男性高齢者における運動−セルフ・エフィカシーに関連する要因分析−。日老医誌49:740-745、2012。
  • 荒井弘和:大学体育授業に伴う一過性の感情が長期的な感情および運動セルフ・エフィカシーにもたらす効果。体育学研究55:55-62、2010。
  • 荒井弘和:行動変容技法を取り入れた体育授業がダンし大学生の身体活動量と運動セルフ・エフィカシーにもたらす効果。体育学研究50:459-466、2005。
  • 岡 浩一朗:中年者における運動行動の変容段階と運動セルフ・エフィカシーの関係。日本公衛誌50:208-215、2003。
  • 金 外淑 他:慢性疾患患者の健康行動に対するセルフ・エフィカシーとストレス反応との関連。心身医36:499−505、1996。
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