こんなにも、“どう生きるか?”という人間の真理に迫る言葉と読書をつないだ本があったでしょうか。激しく心を揺さぶられる一冊でした。
これまでハウツー本やノウハウ本を読んでも、いまいち成長を実感できなかった。これからどうやって生きていこうかと悩んでいる方には、『魂の読書(清水克衛、育鵬社)』はまさしく“生きる指針”を作る熱に溢れた一冊です。
著者は、「ベストセラーは置かない、自分がいいと思った本だけを置く」という書店[読書のすすめ]の店主であり、読書を通して生きる指針を作ろうと奔走する“本のソムリエ”です。大学時代にたまたま手にとった『竜馬がゆく』を読んだのをきっかけに、突如読書に目覚め、商いを目指したといいます。
本書には、著者の考える読書の意義や、さまざまな難題に直面する現代を生き抜いていくための知恵や情熱に溢れています。
今回は、第3章 読書は「タテ」にすべし! より、清水店長の勧める「縦糸の読書」についてご紹介いたします。読書を通して世の中の流れに負けない自分の軸を作ろうという、心の燃える内容です。
「縦糸の読書」で自分の軸をつくる
時代が変わろうが、常識が変わろうが、変わらない「真理」というものがこの世にはある。
私はそう確信しています。
この人間の真理を学べる読書を私は「縦糸の読書」と名づけました。(105ページより)
つまり縦糸の読書とは、
- 人間の真理を学べる読書
- 時代が変わってもずっと残る、普遍的なもの
- 「問い」を見つける読書
- 「厳しいな」「耳が痛いな」ということも書かれているが、読んだ後には心が洗われるような、さわやかな気持ちになる
であり、対する「横糸の読書」とは、次のようなものです。
- 時代の常識的なことを知ろうとする読書
- 時代が変わればすぐに役立たなくなる可能性がある
- 「答え」を見つける読書
- ノウハウ本や方法論
さまざまな情報が溢れ、経済や社会状況が次々に変わっていく現代だからこそ、ぜひ「縦糸の読書」をして、時代や常識に振り回されない軸をつくるよう著者は勧めているのです。
「縦糸の読書」に適するのは、長らく語り継がれてきた古典や名著、偉人の生き方を記した伝記や評伝、心に火を灯すような本だといいます。
たしかに「縦糸の読書」は、読んですぐに結果が出るというものではないでしょう。それでも、“何年も経ってから、じわっっと効果が出てくる本もある”ので、“「縦糸の本」とじっくり付き合って”みることが大事だといいます。
そこで、足腰を鍛えるのに運動が必要なように、脳も鍛える必要があるとして、次の文章が紹介されています。
争いを恐れない勇気を持つということですよ。戦わなきゃだめだってこと。大学生のころ小林秀雄と文学論をしたことがあるんだけど、小林秀雄があるときこんなことを言った。「知性は勇気のしもべなんだ」って。小林秀雄って、日本最大の知性と言われている一人じゃない。その小林秀雄が知性は勇気のしもべだって言った。
これ読書とか学問の本質だと思うんだ。本当は勇気がいちばん重要なんじゃないかって。人から嫌われても、苦しくても、勇気を持って読む。そして、その先にある生命の本質を目指していくのが、やっぱり読書の根本ですよ。(執行草舟・清水克衛著『魂の燃焼へ』イースト・プレス)
「問い」を見つける読書
ふだんの生活で、わからないことや調べたいことが出てきたとき、ググっていることが多いと思います。しかし、あくまでも“ググっているのは「他人の言葉」”なのです。いつでも他人の言葉に頼っていては、真の問題解決力はつきません。
得られた答えに経験をプラスして、自分なりの戦略を立てることが必要です。まさに読書は、「他人の言葉」を「自分のもの」にする力をつける最適な方法です。
「根拠」を求めて「他人の言葉」を探してきても、「これは自分にとってどういう意味を持つものなんだろう?」と考えなければ、自分の役には立ちません。
「他人のものは他人のもの」で、それを「自分のもの」にするためには、「自分のものに変える」という行為が必要で、「根拠」は自分で作るものなのです。(『負けない力』橋本 治、大和書房より)
このような橋本 治さんの言葉を引用して、自分自身で「根拠」を作っていくことが大事だと説いています。
近年は日本人の“読書離れ”が叫ばれていますが、その原因はテレビやスマホの普及ではないといいます。
日本人全体が、「問い」という疑問を持てなくなっているのが原因だと思います。「なぜ?」という疑問を持てない人間は、奴隷といってもいい。
早急に、生きることの「問い」を見つけなくてはならないと若い方に申し上げておきたい。
でも早過ぎる変化に文句を言っても始まりません。
だからこそ我々は、「なぜ?」という「問い」を見つけるための読書が必要なのです。(27ページより)
他人の書いた答えを欲しがってばかりでは、真に自分らしい人生を送っているとはいえません。読書を通して、「なぜなんだんろう?」という「問い」を持ち、自ら考え抜く。それこそ、時代や常識に流されずに生きる、自分の軸を持つことになるのではないでしょうか。
今の世の中はみんな、すぐに答えを欲しがっていると指摘します。その風潮が「すぐに売り上げが上がるテクニック」「モテる方法」などのノウハウ、ハウツー本の流行に現れているといいます。
しかし人間相手の現実において、「〜すれば・・・なる」という「答え」は存在しません。自分の肚に落とし込んで考えることが、自分独自の解決策を導くことになります。
そこで「なぜ?」という「問い」を見つける読書が必要だと説いているのです。
「そもそも論」と「流れ」で考える
急速に変わっていく世の中で、いろいろな矛盾を感じることがあります。つい先日まで常識とされていたことが、今日には覆されていたりします。そんなときは、「そもそも論」を考えることが必要だと著者はいいます。「そもそも論」を考えることは、ものごとを根源的にみることになるからです。
「そもそも、それはなぜ?」
と、根源を知ることが大切で、それを考えていないと世間の流行りに流されて、自分が今どこに流れているのかわからなくなります。ひょっとしたらとんでもない方向に進んでいたりしちゃいます。
最近、「そもそも論」を考えてみる読書の重要性をみなさんに言っています。
なぜなら、今を考え、未来を考える時、「そもそも」という根源を知らなければ、それが語れないからです。(62ページより)
世の中の課題を解決していくために、ものごとの本質を知り、正しく行動することが求められます。そのとき「そもそも論」で根源を考え、「どういう流れで今に至ったのか」という「流れ」を考えることが大事だといいます。
例えば、“そもそもなぜ少子高齢化になったのか? そして、どういう流れで今に至ったのか”、“そもそも不祥事を起こした企業はどういう思いで会社を立ち上げたのか? そして、どういう流れで社長が辞めることになったのか” 、などのようにです。
“生きるって何?”。「そもそも論」のもっとも純粋で究極の問いです。
人間や世の中の真理を知る「縦糸の読書」は、「そもそも論」を考えるのに最適な糧となります。
結びに
いま直面している問題の解決手法やトレンドを知るために読書をすることは少なくないでしょう。答えを見つけたり、いまの常識を知ろうとする読書は、著者曰く「横糸の読書」であり、これだけでは時代が変われば役立たなくなるといいます。
一方、世間の空気や常識に流されず、自分の軸を持って生きる。「問い」を見つけて、自分で解決策を導き出す考える力を養うための読書は、「縦糸の読書」であり、時代を経ても不変のものです。
「縦糸の読書」をするには、“精神の障害物となるような”本を選ぶことが必要だといいます。その国の古典には、時を経ても薄れない、まさに人間の真理に迫るものが多いのでしょう。また伝記や評伝を読むことで、「人生をどう生きるか?」という根源を考えることもできます。
これまで自己啓発本をいくら読んでも成功できなかった。自分の考えをもって、自分らしく生きたい。時代や常識に振り回されない自信をつくりたい。と悩んでいるあなたにぜひ手にとっていただきたい一冊です。また巻末の「世の中にながされないためのブックガイド60」は、これからどんな本を選んでいけばいいのかという案内役として最適です。
本書をきっかけに、「縦糸の読書」の世界へ足を踏み出していただければ幸いです。私も引き続き、『魂の燃焼へ(執行草舟、清水克衛著、イースト・プレス)』を読んでいきます!