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股関節疾患の理学療法に必要な局所的・全身的視点

第24回宮崎県理学療法学会では、加藤 浩 先生(九州看護福祉大学大学院)により「 極める!股関節機能障害の理学療法 」と題した特別講演がありました。

今回はご講演内容からダイジェストとしてご紹介させていただきます。

まず、「きわめる」について2つの意味を示されました。

極める…その先がないところまで行き着く。患者を治す“匠の技”の領域

究める…自身の推論(思考過程)を磨く。“探求する心”を持ち続ける

理学療法士は、「極める」技と「究める」思考を両輪として、日々患者さまと向き合っていくことが大切だと語られました!

股関節機能障害に対する理学療法

股関節機能障害の理学療法では、「局所的視点」と「全身的視点」から機能障害や動作をみていくポイントを示されました。

局所的視点:股関節の病態運動学的特性

局所的視点で重要なのは、「瞬時回旋軸(instantaneous axis of rotation:IAR)」の軌跡と、「股関節周囲の各筋の出力特性」を把握することです。

瞬時回旋軸(IAR)の偏位

股関節(大腿骨頭と寛骨臼蓋で構成される臼状関節)の運動は、通常は大腿骨頭を中心とした回転運動となります。しかし、股関節に形態異常(臼蓋形成不全や退行変性など)があれば、回転運動にすべり/転がりを伴うなど、正常から逸脱した運動になっていることが少なくないといいます。

つまり股関節の病態運動では、IARと大腿骨頭の動きに乖離が生じる、とくに外転運動に伴ってIARが外下方に偏位することを明らかにされました。

IARが偏位すれば、「Pauwelsの理論」でいうところのレバーアームの長さが変わります。

IARが外下方に偏位するということは、股関節外転筋のレバーアームが短くなり、体重によるモーメントと釣り合うためには、より大きな緊張力が求められます。つねに大きな張力発揮を強いられた筋は、容易に疲弊してしまいます。

股関節の可動域(ROM)運動をするときには、IARの軌跡(骨頭運動のズレ)を想定しながら動きを誘導するのが大切です。

また事前にX線画像から、形態変化によって骨頭運動がどんな影響を受けそうかを把握しておくのも必須だといわれていました。

各筋の出力特性

股関節周囲の各筋の出力特性(姿勢や動作のある局面で、どの筋が、どれくらい働いているか?)は、骨盤アライメントによって、その比率が変わります。

例えば、片脚立ちする場合の大殿筋と中殿筋の出力比率をみると、中間位では[大殿筋:中殿筋=3:4]なのが、骨盤前傾位では[大殿筋:中殿筋=4:3]になるといいます。つまり、変形性股関節症(OA)者において骨頭被覆率を高めようと骨盤前傾を強めているような方では、大殿筋を過剰に使って立っているということ。

OA者に対して筋力強化を促す場合には、大殿筋・中殿筋・大腿筋膜張筋の出力を触診しながら、適切な出力特性を学習させていくのが大切です。

全身的視点:歩行時の下肢力学的エネルギー連鎖

全身的視点では、動作の発現に必要不可欠な力学的エネルギーの流れを理解することです。

力学的エネルギーの流れ

力学的エネルギーとは、物理学でいう「仕事をするための潜在能力」と定義されます。「仕事(W)」とは、「加えた力(F)と物体が移動した距離(ΔS)の積(W=F×ΔS)」で表されます。

ひとの動きをみると、歩行や立ち上がり動作において、必ず身体重心が移動します。つまり、「力」によって「仕事」がなされた結果、動作が成り立つ”といえます。

立ち上がり
動作には身体重心の偏位を伴います。つまり「力」によって「仕事」をなされた結果です。

 

ここでいう「力」は、筋張力による関節モーメント(トルク、回転力)と言い換えられます。筋張力による関節モーメントは「内部モーメント」ともいわれ、床反力による「外部モーメント」と逆方向で釣り合い、関節の安定化に寄与しています。

関節モーメントからさらに、単位時間あたりの発揮量「関節モーメントパワー(仕事率)」、そして体節ごとの「セグメント・モーメントパワー」が算出されます。関節モーメントの向きと、モーメントパワーの向きの組み合わせによって、動作中の筋の収縮様式を推察することができるといいます。

臨床場面では、望ましい動作を獲得するには、力学的エネルギーを効率的に発揮できる身体環境をつくっていくこと、動筋と拮抗筋の同時収縮によって関節制御することが重要だと考えられます。

隣接関節との関係

歩行立脚初期の力学的エネルギーの流れを調べると、健常者では[骨盤→大腿、下腿→大腿]のように、大腿部へエネルギーの流れを集約させることで効率的な筋力発揮を可能にしています。一方、OA者では大腿部へエネルギーが集約されず、効率的な筋力発揮ができていないようです。

臨床場面では、歩行初期接地時の大腿部の瞬間的な安定化(空間座標にとどまる)がカギになります。大腿部を安定化させるためには、大腿部筋の遠心性収縮、さらに遠心性収縮から求心性収縮への切り替えを促すようなトレーニングが重要です。

例えば、レッグプレス(CKC、荷重下での下肢伸展)運動では、抵抗方向(力発揮方向)を変えることで、大腿四頭筋優位/ハムストリング優位を調節できます。

*筋の作用として、求心性収縮で「加速」を生みだし、遠心性収縮で「衝撃吸収・姿勢制御」に働きます。歩行立脚期の制御には、筋の遠心性収縮が求められますが、OA者では遠心性収縮機能が低下していることが多いようです。筋力強化の方法を工夫する必要があります!

レッグプレス

まとめ

股関節機能障害に対する理学療法をおこなううえで、次のような視点が大事だと学びました。

  • 局所的視点として、股関節運動時のIARを考慮しながら、ROM運動をおこなう。
  • 大殿筋・中殿筋・大腿筋膜張筋の出力比率を触診しながら、適切な出力を学習させる。
  • 全身的視点として、力学的エネルギーを効率的に発揮できる身体環境をつくる。
  • 歩行初期接地時の大腿部の安定化を促すよう、筋の収縮様式に工夫して筋力強化する。

プロフェッショナルの誇りをもって、業務(job)から仕事(work)へ

という熱いメッセージとともに、臨床へ活かせる豊富な内容でした。

貴重な学びの機会を本当にありがとうございました。

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