「リハビリ」と聞けば、運動や訓練、マッサージなどを思い浮かべるのではないでしょうか。
例えば腰を痛めて病院(整形外科)へいくと、レントゲンを撮って、医師の診察があります。そこではこんなやり取りがなされたりします。
医師 「レントゲンでは、骨には異常はないから、あとはリハビリしましょう」
患者 「ん? リハビリって(・・?」
私は、リハビリ専門職といわれる理学療法士として11年間、患者さんのリハビリに携わってきました。そこではさまざまな病気やケガを抱えながらも、回復を信じて励む患者や家族の姿に、こちらが胸を熱くする場面もありました。
ただ一方で、リハビリへの認識に不一致があると、本人のニーズに応えられなかったり、依存的な心理状態になってしまったりした痛い経験もあります。
そこで今回は、いわゆるリハビリについて、その真意をご説明します。
もしあなたやご家族が今後、リハビリの場面に遭遇したときの心構えとしてお役立ていただければ幸いです。
「リハビリテーション」とは
いわゆる“リハビリ”とは、正式には「リハビリテーション(rehabilitation)」のことです。
リハビリテーションの意味は語源からみると、「再び、人間にふさわしい(あるいは、人間として望ましい)状態にする」ことです。「全人間的復権」と邦訳されることもあります。
当初は、中世ヨーロッパでは王侯貴族などの「身分や地位の回復」や、「破門の取り消し」という宗教的な意味合いで使われていました。
1910年代の末、第一次世界大戦のころから、「心身に障がいをもった者に対する機能回復や能力向上、社会復帰」という意味をもつようになり、第二次世界大戦のころに定着したとされます。
現在では端的にいえば、「何らかの障がいをもった方が、可能な限りもとの社会生活を取り戻す」ことを指しています。
「もとの社会生活」とは、次のように多義的なものであり、その個々人に応じて設定する必要があります。
- 基本的な日常生活動作:立つ、歩く、食べる、着替える、入浴など
- 社会参加:仕事をする、家庭での役割、地域との交流、友人関係など
- 生きがい:趣味、スポーツ、思想など
何らかの理由で、これらの「社会生活」を送ることに支障をきたすことがあります。障がいをもってしまう原因は、外傷(ケガ)や病気、事故、先天的なものなどさまざまです。
そのような障がいをもった状態からもとの社会生活を送れる、つまり自分らしく生きることを取り戻す過程をリハビリテーションというのです。
なお世界保健機関(WHO)は1981年の国際障害者年に、リハビリテーションについて次のように定義しました。
リハビリテーションは能力低下やその状態を改善し、障害者の社会的統合を達成するためのあらゆる手段を含み、障害者が環境に適応するための指導を行うばかりでなく、障害者の社会的統合を促すために全体としての環境や社会に手を加えることも目的とする。
なお、リハビリテーションに関するサービスの計画や実行には障害者自身、家族、彼らが住んでいる地域社会が、参加しなければならない。
誤解されがちですが、例えば「歩けるようになる」、「(入院から)自宅に帰る」、「肩の痛みがとれる」だけがリハビリテーションとはいいません!
歩いて、どこに行きたいのか。
どんな歩き方を想定しているのか(場所、距離、速さ、杖やカートの使用)。
自宅に帰ったら、どんな生活をするのか。
肩が動くことで、どんな活動(更衣、洗髪、スポーツ、仕事など)ができるのか。
あくまでも、その人らしい生活を取り戻すために、あらゆる手段を講じていくことになります。
なので入院中に、「それじゃリハビリ行ってきます」などの使い方は、本来とは異なります。
ご本人や家族、その地域社会を巻き込んで、最大限もとの生活を取り戻そうとするプロセスなんです。
またもとの生活を取り戻しても、すぐに再発したり、能力低下してしまっては元も子もありません。再発予防や未然防止も、大事な観点になります。
リハビリテーションの種類
リハビリテーションは、その人(対象者)が何らかの障がいをもった時点から身体機能の回復過程や時間経過に応じて、さまざまな内容で実施されます。
またその人の抱える問題(困っていること、解決したいこと)は、一つだけとは限りません。いくつもの問題が重なったり、並行したりしていることも少なくありあせん。
例えば、85歳の女性が自宅の玄関で転倒し、背骨を骨折したとします。骨折が治癒すれば、すぐ自宅に帰られるとは限りません。この方が一人暮らしで、段差の多い家に住んでいたとしたらどうでしょう。
ケガの治療に加えて、住宅の改修(バリアフリー化)や、必要に応じて配食や入浴などのサービス、介護保険の利用などについても検討していく必要があります。
このように時系列で変化しながら、重複する問題を解決していくために、リハビリテーションは、おもに次の5つに分けられます。
- 医学的リハビリテーション
- 職業的リハビリテーション
- 社会的リハビリテーション
- 教育的リハビリテーション
医学的リハビリテーション
運動療法や物理療法、作業、発話などの手段を用いて、その人の心身の生理的な機能回復や代償手段の獲得を主な目的とするのが、医学的リハビリテーションです。
医学的リハビリテーションは医師や看護師による医学管理(手術、服薬、注射など)に加え、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)、などのリハビリテーション専門職が、それぞれの特性によって機能回復へのアプローチを行います。
心理的リハビリテーションとして精神療法や心理学的判定、心理学的サービスなどを含む場合もあります。
職業的リハビリテーション
職業的リハビリテーションは、その人の障がいの特性や残された機能に応じて能力を開発・再獲得し、就労へ復帰するまでの過程を指します。医学的リハビリテーションの最終過程としてとらえられることもあります。
職業的リハビリテーションに関わる職種には医療ソーシャルワーカーやリハビリテーションカウンセラー、職業訓練指導員などがあります。
職業復帰までの過程では、更生相談所や職業センターなどで行われる職業評価、障害者能力開発校や授産施設、福祉工場棟などで行われる職業トレーニング、ハローワークによる就職斡旋などが行われます。
社会的リハビリテーション
社会的リハビリテーションでは、その人が家庭や地域社会での生活に適応することを目的とします。
さまざまな社会状況の中でその人のニーズを満たし、豊かな社会生活を過ごせるよう、ソーシャルケースワークや在宅援助などの手法があります。
社会的リハビリテーションは、「機会均等化」と合わせて障がい者の自立と社会参加を進めるための両輪とされます。
教育的リハビリテーション
教育的リハビリテーションは、おもに2つの柱−障がい児教育、障がい者の社会教育−からなります。
「障がい児教育」では、脳性麻痺や二分脊椎といった先天性疾患や発育段階で生じた障がいをもった子どもが教育を受けるための、広範囲な働きかけを行います。日本の肢体不自由児教育の創始者といわれる高木憲次によって、医療と教育が連携する必要性として「療育」の概念が広がりました。
「障がい者の社会教育」では、障がいを持ちながらも残された人生を充実させるための働きかけを行います。具体的には、残された機能の活用や社会資源の利用、住環境整備などがあります。家族や周囲の人の協力が不可欠であり、疾患や障がいについての知識学習や啓蒙活動も重要なことです。
リハビリテーションに関わる職種
上記したように、その人の抱える問題を解決し、その人らしい社会社会生活を取り戻すためには、さまざまな手段や幅広い働きかけが必要です。
そのためリハビリテーションには、それぞれの特性をもったたくさんの専門職が関わります。その人とご家族をとり囲んだチームとして、より良い生き方を目指して進んでいくことになります。
あなたがリハビリテーションに取り組むことになったら
ここまでお読みいただき、“リハビリ”=運動、マッサージでは、ないとご理解いただけたでしょうか。
もしあなたやあなたのご家族が、はからずもリハビリテーションを受ける場面になったときには、4つのリハビリテーション(医学的・職業的・社会的・教育的)を思い出していただければと願います。
病気やケガ、事故などによってそれまでの社会生活を送ることが困難になったとしても、あらゆる専門職がその復帰への過程を支援しています。
ただその一方で、リハビリテーションも完璧ではない、ということも頭に置いておく必要があります。医学的リハビリテーションに励んでも、ケガをする前の状態をまったく同じとはいきません。とくに大きなケガや手術、長期間の安静の後には、何らかの後遺症が残る場合もあります。
年を重ねるほど、若いときと比べて回復に時間もかかります。
そのときには、「後遺症が残ったとしても、人生を充実させる、自分らしい生き方をするためにはどうするか?」と、考えを変える必要があります。
諦めもせず、執着もせず、あなたらしい生き方を追求していただければ幸いです。
健康的な体づくりには食事が大切です。「ビタミン」、「ミネラル」をしっかり補給できるよう、バランスよく食べることを心がけてください。不足しがちな栄養素は、サプリメントで補うのも有効です。