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生体は筋肉の働き(収縮)によって関節を動かし、動作や運動を成り立たせています。そのため動作や運動能力を高めたいと思えば、筋力トレーニングは不可欠です。

筋力トレーニングは、その目的(筋肥大、筋力増強、持久力向上、ダイエットetc)によってさまざまな手法があります。筋に負荷をかける以上、そのメリットとデメリットは紙一重であり、目的に応じた適切な方法を選択する必要があります。

今回はセラピスト向けに、医学的に安全な筋力トレーニングの手法についてご紹介します。なお本記事の内容は、Spine Dynamics療法研修会<アドバンス①>の内容を参考にしています。

筋代謝機能を高めるための安全な筋力トレーニング法

セラピストが処方する筋力トレーニングの目的は、筋代謝機能を高めることで、運動機能の向上を図ることです。筋代謝機能が高まれば筋機能が向上し(より強く、より速く、より長く)、日常生活やスポーツ動作がやりやすくなります。

筋収縮のエネルギーはアデノシン三リン酸(ATP)ですが、このATPを調達する手段は主に次の3つがあります。

  1. クレアチンリン酸系
  2. 解糖系
  3. 有酸素性エネルギー代謝

1、2.を合わせて無酸素性エネルギー代謝といいます。

安全に筋力トレーニングを実施するには、この筋のエネルギー代謝を考慮して負荷設定することが何より重要です。結論からいえば、次の5点に集約されます。

(1)筋の無酸素性代謝閾値(anaerobic threshold:AT)レベルで行う(35〜45%MVCに該当し、筋内血流が維持される負荷)

(2)有酸素性エネルギー代謝を担う遅筋線維(ST線維)での熱量発生を優先する

(3)等尺性収縮を避ける(交感神経の過活動を起こさない)

(4)等速性運動機器(Isokinetic machine)の使用が望ましい

(5)筋力測定にもとづいて個々の体力レベルを評価し、適切な負荷を設定する

大事なところなので、一つずつみていきます。

筋内血流が維持される負荷強度を守る

強い筋収縮によって筋内血管が圧迫を受け、血流が遮断されます。筋内血流が遮断されると、エネルギー代謝に必要な酸素が細胞に届けられなくなり、無酸素性エネルギー代謝が優位となります。

無酸素性エネルギー代謝では乳酸の産生が分解を上回り、乳酸蓄積によって運動継続が難しくなります。また内科疾患を有する患者さんなどでもリスクが高まりますし、細胞への酸素共有が滞れば異形化からがん化を招いたりします。

運動強度の増加に伴って血中乳酸濃度が急激に上昇するポイント(負荷強度)を「乳酸性作業閾値(lactic threshold:LT)」といい、「無酸素性作業閾値(anaerobic threshold:AT)とほぼ同義です。


そして筋内血流が遮断される内圧は350〜400 mmHgであるとされています(*Edwards、1972)。一般人では、ほぼ350 mmHgです。筋内圧は筋収縮の程度と相関し、[筋内圧[mmHg]=6.92×%MVC]から算出されます。

随意最大筋力(Maximal voluntary contraction:MVC)の20%を超えた頃から筋内血流が阻害されるようになり、50%MVCで350 mmHgに到達して血流が遮断されます。

筋内血流を維持しながら安全に筋力トレーニングを実施するには、50%MVCを超えない強度を守ることが重要です。

Edwards RHT, Hill DK, MacDonnell M:Myothermal and intramuscular pressure measurements during isometric contractions of the human quadriceps muscle. J Physiol 224:58–59, 1972。

有酸素性エネルギー代謝でまかなわれる負荷強度

軽い負荷から運動を初めて徐々に強度を高めていくと、運動に動員される筋線維のタイプが変わっていきます。


Gollnic(1974)*によると、20%MVC未満の筋収縮では遅筋(slow twitch: ST)線維が優位に使われ、20%MVC以上になると速筋(fast twitch:FT)線維の動員が始まり、50%MVCを超えるとFT線維が優位に使われるようになります。

*Gollnick PD, Piehl K, Saltin B:Selective glycogen depletion pattern in human muscle fibres after exercise of varying intensity and at varying pedalling rates. J Physiol. 241(1):45-57, 1974.

FT線維は無酸素性エネルギー代謝により熱量を産生する特性をもつので、運動が長続きしません。日常生活であれ、スポーツであれ、高いパフォーマンスを持続していくには、ST線維とFT線維を同時に鍛えていくのが理想です。その最適な負荷量がATレベルなのです!

 

また運動強度が高まるにつれて、自律神経活動も変化してきます。とくにATレベルを超えて以降に交感神経の活動が一気に亢進します

交感神経が持続的に過活動していては、末梢の血管が収縮しやがて血流が滞ります。交感神経の過活動は生体恒常性の維持に影響を及ぼすため、避けるよう注意します。

しかし、20%MVCを下回るようなあまりに弱い負荷でも筋力強化の効果が得られません。少なくも30%MVC以上の負荷が必要とされます(Hettinger、1961)。

そこで、効果が得られ、生体恒常性を脅かすようなリスクの少ない方法として35〜45%MVC*の負荷強度が奨められるのです。

*呼吸のATレベルと筋のATレベルは異なるため。測定された乳酸値は、筋での乳酸の除去過程を経ているため、実際のATはもっと早期に(軽い負荷)通過していると推察される。

等速性運動機器の使用

上記したような負荷量を関節運動の全範囲にわたってかける(緊張力が一定になる)には、等速性運動機器の使用がベストです。徒手抵抗では均一な負荷にならず、重錘やバンドでは関節運動の角度毎の負荷が変わってしまうためです。

等速性運動機器を使う場合の負荷設定と該当する%MVCはこちら。

300 deg/sec…(34%MVC)*主流はこちら。

240 deg/sec…(46%MVC)*肉離れ後などに筋収縮機能を取り戻す目的で用いることもある

ただ身近に等速性機器が無い場合は、それに近い条件(50%MVCを超えない)で抵抗をかける方法を選択し、「抗重力位での反復動作30回を、筋疲労を感じずにリズムも変わらず実行できる」負荷量を設定します。

ATトレーニング(心と体のリハビリテーション研究会)

筋力評価をしっかりと行う

個々人の体力レベルによって運動負荷量や負荷方法を変える必要があります。体力レベルを評価する指標として、体重支持指数(weight bearing index:WBI)が有効です。WBIは重力下における全般的な運動機能を反映するとされ、最大等尺性膝関節伸展筋力の体重比から算出されます。

WBI値にもとづく体力レベルと、適切な負荷量の目安はこちら。

☆WBI <40:荷重動作不能、要歩行補助具、ADL制限、水中運動

☆WBI 40:歩行補助具除去、荷重動作不能、水中運動、ステップマシン(semi CKC)

☆WBI 60:歩行獲得の最低レベル、許容歩数5,400歩

☆WBI 80: デスクワークや家内作業レベル。筋代謝は無酸素性優位。6km/hの歩行(テンポ130-135/分)

☆WBI 100:重力下で生活するのに必要な基本体力。

☆WBI 120:ADLをほぼ快適に過ごせるレベル。筋代謝は有酸素性優位となる。

☆WBI 130:スポーツ選手(傷害予防可能)の最低ライン。

☆WBI 150:競技スポーツに全力で取り組めるレベル。筋代謝はすべての活動を有酸素性代謝(ST線維による)でまかなえる。

*許容歩数:[WBI×90]から算出
*荷重動作制限とは、重力化の姿勢をとるだけで生体への過負荷となっていることを表す。
*スポーツ選手であっても、試合前のプレッシャー(強迫観念)などから容易に交感神経過活動をきたし、筋緊張亢進を招くためストレスコントロールは必須。
*「後半に失速しやすい」という選手は、FT線維を優位に使ってプレーしていることが多く、FT線維による代謝を向上させるようなトレーニングが必要。

とくに体力レベルの低い方では、日常生活での重力負荷そのものが生体への過剰負荷となっている場合もあり、注意が必要です。例えば、「とくに何もしていないのに膝に水が溜まる」「立っているだけ腰が痛くなる」といった訴えは、重力負荷に耐えられていない体力レベルを示唆しています。

まとめ

Spine Dynamics療法はある種の決められた治療手技ではなく、「考え方」「概念」です。その考え方は、地球上で暮らしているうえでの物理の原則にもとづいて導かれたものであり、生体恒常性の維持が大事にされています。

今回ご紹介した手法は、外傷や機能障害からの回復過程であったり、内科疾患を有する方の運動能力向上など、リスクを考慮しながら効果を出していくうえで適切な方法です。

ぜひふだんの臨床にご参考いただければ幸いです。

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