こんにちは、大山ふみあき(@ThanksDailylife)です。
「安全管理」や「リスクマネジメント」は、リハビリテーションに携わるあなたであれば、常に頭に置かれていると思います。
ただ、“どんなリスクがあるかを把握したうえで、それを適切にマネジメントし、患者に最適な理学療法を提供できている”と自信をもっていえるでしょうか。
ぼくは理学療法士として13年間病院で働いてきて、たくさんの失敗がありました。
- 転倒による皮ふ剥離
- 運動負荷が強すぎての体調不良
- 起立練習での血圧低下 など
リスクマネジメントを誤れば、患者にとって重大な不利益となり、組織にとっても大きな損失になります。
失敗するたびに、“同じ失敗を二度と起こさない”と誓って、リスクマネジメントや医療版失敗学を学んできました。
セラピストのもつ専門知識や技術は、患者が抱える問題(疾患/症状/徴候)に対して適切に選択されてはじめて効果がみとめられます。
その大前提として「医療安全」があり、患者への適正なリハビリテーションの提供における安全確保はまず優先されるべきものです。
患者が抱える問題点について仮説(症状の発生機序/治療戦略)を立て、さまざまな検査・測定によって評価し、治療プログラムを立てていくー「臨床推論」のプロセスで安全確保が第一になります。
客観的評価と治療における注意・禁忌事項は?
客観的評価や治療アプローチを選択するうえで、“どの方法が禁忌になるのか”、“どんな注意を払うべきか”、“どんな制約があるか”などを判断します。
次のような観点から患者の状態を評価しましょう。
- 疼痛メカニズム:入力系/処理系/出力系
- 患者の考えと期待(例えば、破局的思考は存在しないか)
- 疾患の重症度
- 疾患の過敏性
- 疾患が進行期かどうか
- 特定の病理所見の存在(リウマチ様関節炎、骨粗しょう症など)
- 回復段階(組織の治癒過程)
- 一般健康状態(バイタルサインや血糖値は正常か、睡眠不足や過労はないか、など)
- より重篤な病理を疑わせる所見(原因不明の体重減少や持続する熱発など)
- その他
SIN(シン)
患者の訴える症状がどれほどの重症度なのか、どんな性質なのかを明らかにするときに「SIN」が有効です。
「SIN」とは、“Severity、Irritability、Nature of symptom”の3項目の頭文字をとったもの。
Severity:重症度
「セヴェラティ」。
患者の症状の強さや、患者の感じ方(知覚)に関連し、それらが患者の活動をどれくらい制限しているのかに関する項目。
「visual analogue scale(VAS)」や「numerical rating scale(NRS)」などの痛みの程度の指標によって、以下のように判定します。
- 痛みスコアで7〜10 → Severity高い
- 痛みスコアで4〜6 → Severity中等度
- 痛みスコアで1〜3 → Severity低い
Irritability:過敏性
「イリタビリティ」。
患者の症状が誘発される活動量と、その症状が鎮まるのにかかる時間の長さに関する項目。
以下のように判定されます。
- 症状増悪因子(刺激)が加わると瞬時に、急速に痛みが増加し、 その後痛みが落ち着くまでに長い時間がかかる → Irritability高い
- 刺激が加わってから痛みが増すのに時間がある → Irritability中等度
- 刺激が加わってから症状が増すまでに時間がかかり、その刺激が取り除かれればすぐに症状は落ち着く → Irritability低い
例えば、軽く皮ふに触れたり風にあたったりした途端に急激な痛みを訴え、その痛みが10分も20分も続くような(「Irritability高い」)場合は、“一般的な侵害受容性疼痛とは違うな”と疑ってみる必要があります。
反対に、“ジョギングを始めて1時間ほどで膝の痛みが出現したが、1分間ほど休むと痛みは落ち着いた”というケースでは、「Irritability低い」と判定。
Nature of symptom:症状の性質
「ネイチャー オブ シンプトン」。
患部(損傷組織)の性質に関する項目。
現病歴(現在の症状・徴候が発症した経緯と経過)を聴取し、患部の状態が以下のどれに該当するのかを仮説立てます。
- 炎症性(炎症期/増殖期/成熟期)
- 外傷性
- 退行変性
- メカニカルストレスによるもの
目の間の患者が「SIN」の各項目にどれほど該当するのかを仮説立てていきます。
「SIN」に該当する程度に応じて、客観的評価や治療アプローチの介入法を調節していきましょう。
Red flag(レッドフラッグ)
「レッドフラッグ」は、重篤な疾患や病理変化が潜在する可能性を示唆する所見。
「重篤な疾患」とは重篤な脊髄疾患や脊椎脳底動脈不全、小児疾患、悪性腫瘍、心臓疾患など、生命予後や全身状態に影響を及ぼす可能性があるものです。
以下のような症状・徴候があれば「レッドフラッグ」に該当し、医師の判断を仰ぐ必要があります。
- 特異的な画像所見、神経病理学的検査所見、血液検査所見
- 急激な体重減少
- 原因不明の長引く熱発
- 明かな神経障害徴候(膀胱直腸障害など)
- 激しい安静時痛
- その他
むすびに
患者の訴える症状や身体徴候が、セラピストによる対応の適応なのか?
適応だとすれば、どんな注意・禁忌事項があるのか?
まず判断することが重要です。
その判断に基づき、以下のような選択肢を考慮していきます。
- 医師の指示を仰ぐべきか
- 痛みを伴う手技と無痛の手技のどちらを選択するか
- 安全に治療を行うにはどの程度の力や運動負荷を加えるべきか
安全な方法が選択されてはじめて、患者は安心感をもち、目指すゴールへ向けてリハビリテーションに励むことができます。
ぜひ安全確保に関する根拠をもって、最適なリハビリテーションを行いましょう。
あなたの臨床推論にお役立ていただければ幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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