こんにちは、大山ふみあき(@ThanksDailylife)です。
“リンパの流れをよくしよう”
“リンパマッサージでダイエット”−
このように「リンパ」と聞くと、“むくみ”やダイエットのことが想像されやすいと思いますが、意外とよく知らないという方も少なくないのではないでしょうか。
今回はわかりそうで、よくわからない「リンパ」について解剖学や生理学にもとづいてまとめます。
ときおり専門用語も混ざっていますが、最後に健康できれいな身体を維持するヒントもありますので、どうぞ最後までおつきあいください。
リンパ系=リンパ節+リンパ管
リンパの全体像は「リンパ系」といい、「リンパ節」と「リンパ管」をあわせて全身をめぐるネットワークが構築されています。
リンパ節
リンパ節はリンパ球(白血球の一種)やマクロファージがたくさん集まった小豆大の組織で、とくにあごの下や首すじ、腋窩、胸腹部の内臓と大血管のまわり、そけい部、のどの奥にある扁桃(へんとう)に多く分布しています。
リンパ節のはたらきは主に免疫機能。リンパ節はリンパ液をろ過して病原菌や毒素、がん細胞などが血液循環に侵入しないよう“フィルター”の役割を果たしています。
リンパ管
リンパ節とリンパ節をつなぐ道が「リンパ管」。
血管と細胞や組織の間で物質交換(酸素や栄養素)をする過程でしみでた体液を回収し、静脈側へもどしています。
リンパ管には多数の「弁(べん、一方向のみに開くドアのようなもの)」があり、リンパの逆流を防いでいます。
身体に必要な栄養素をもらさず、かつ不必要な老廃物を確実に体外へ排出するための“リサイクル”のしくみが整っているんですね。
リンパ(リンパ液)の正体
いわゆる“リンパ”といわれるのは「リンパ液」のこと。リンパ(リンパ液)はリンパ管の中を流れる体液のことをさします。
リンパは全身にめぐらされた毛細リンパ管で回収され、以下のような成分が含まれています。
- 血管の外にしみ出た血液中の血漿成分(血液から赤血球や白血球、血小板などの有形成分を除いた液体成分)
- 電解質(ナトリウムイオンやカリウムイオン、重炭酸イオンなど)
- ブドウ糖
- 老廃物
- 病原体
- ホルモン
- 壊れた細胞の断片 など
リンパはどこで作られるの?
リンパが作られるのは肝臓や腸で多く、ほかの腹部臓器や四肢で少ない。
高脂肪食をとると食後数時間にわたって腸管リンパが数倍に増加。腸で吸収された「脂肪分」の重要な輸送路を担っています。
人体では全身の毛細血管で1日にろ過される量は約 20リットルで、このうち 16~18リットルが吸収され、残りの2~4リットルが1日のリンパ生成量。
なので“リンパを流してダイエット”というのは、その効果のほどは疑わしいです。
リンパは最終的にどこへ流れいくの?
リンパの流れは原則、〈全身(末端)→心臓〉の向き。
ただし直接心臓へ入るわけではありません。
全身にめぐらされた毛細リンパ管から「集合リンパ管」、「主幹リンパ管」へと太い管に合流していき、左右の首元にある「静脈角」へ流れ込みます。
このとき左右均等に流れ込むわけではないのがミソ。
「左静脈角」に流れ込むリンパ液のほうが、右静脈角に流れ込むリンパ液よりも多いのです(80:20)。
身体の各部位から集められたリンパがどちらの静脈角に流れ込むかを示したのがこちら↓
- 両下肢、腹部、左胸部、左腕、左頭頸部のリンパ液 → 左静脈角
- 右胸部、右腕、右頭頸部のリンパ液 → 右静脈角
リンパの左右差にどんな意味があるの?
左右の静脈角に流れ込むリンパに左右差があるのは、臨床的にどんな意味があるのでしょうか。
- 手術などで損傷しやすい
- 「Virchow(ウィルヒョウ)転移」
胃にできたがん細胞がリンパ管経由で頸部のリンパ節に転移した場合、「左の頸部リンパ節(左鎖骨上窩リンパ節)」に転移しやすく、これは臨床的にも重要な所見とされます。
リンパの流れを生みだす要因
リンパの流れがつくられるのには2つのしくみがあります。
リンパ管をとりまく外の組織から力が加わる「受動的リンパ輸送機構」と、リンパ管自身の動きによる「能動的リンパ輸送機構」です。
それぞれ詳しくご説明しますね。
受動的リンパ輸送機構
- 筋肉の収縮(筋ポンプ作用)
- 呼吸運動
- 消化管の運動
- 動脈の拍動
リンパ に近接するこれらの組織の運動によって毛細血管に圧を加え、血管内圧が上昇。すると毛細血管ろ過量が増加し(血管壁からにじみ出る)、リンパとしてリンパ管を流れる体液が増えるというしくみです。
またリンパ管は動脈や胸腹部内臓のちかくを通っているので、これら血管や内臓の動きに伴ってリンパ管に圧が加わり、勢いよくリンパが流されます。
ホースをギュッと絞ったときに水の勢いが増すのと同じ原理ですね。
能動的リンパ輸送機構
「能動的」とはリンパ管自身のはたらきによって、リンパの流れが生まれるしくみ。
リンパ管のカベは「平滑筋」という筋肉の3層構造でつくられて、この筋肉層が自発的に収縮し、リンパの流れを生み出します。
1分間に2〜6回というとてもゆっくりしていますが、心臓のように周期的にくりかえされるリズムです−「心臓様収縮」と呼ばれます−。
能動的リンパ輸送機構はとくに「下肢」のリンパ管で盛ん。重力にしたがって下肢にたまりがちな体液を心臓側へ押し返さなければならないからでしょうね。
リンパの流れを調節するしくみ
リンパの流れはリンパ管自身のはたらきと、リンパ管の外からの力によって生みだされます。
さらにその流れを速めたり、緩やかにしたりするしくみが備わっています。
それがホルモンや伝達物質による「液性調節機構」と、自律神経がかかわる「神経性調節機構」のふたつ。
液性調節機構
ブラジキニンやセロトニン、プロスタグランジン、ノルアドレナリン、ヒスタミン、ドーパミンなどの物質のはたらきによってリンパ管平滑筋は収縮し、リンパ流量は増加します。
しかし高濃度になるとリンパ管平滑筋は緊張し続け、リンパの流れは滞ります。
神経性調節機構
リンパ管は交感神経による支配も受けています。交感神経の興奮によってリンパ管平滑筋は収縮し、リンパ流量は増加。
しかし交感神経の緊張が持続すればリンパ管は縮こまったままで、リンパの流れは滞ります。
【リンパ浮腫】リンパの流れが滞ることによる健康被害
何らかの理由でリンパ管がつまったり、流れがわるくなったりすると手足がパンパンにはれることがあります。
それが「リンパ浮腫(ふしゅ)」。
腕が重くて手をつかいにくい、足が重くて歩きにくい、服やズボンを着にくい、美容的問題などで日常生活に支障をきたすようになります。
症状はがん治療(乳がんや子宮がんなどの手術や放射線治療)後に腕や脚に、腫れ、むくみ、だるさ、疲れやすさなどの症状で発生。
症状は手術などの治療後すぐに生じる場合もあれば、10年以上経過して出てくる場合もあります。
症状はゆっくりと進行することが多いので、適切な治療が行われず、浮腫が進行しやすいので注意が必要です。
リンパ浮腫に伴う合併症としてもっとも注意すべきなのが「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」。
皮ふや皮下組織の感染による炎症を繰り返すことによって皮膚が硬化し発赤や痛み、圧痛を生じます。
リンパの流れが悪くなる原因
がん治療に伴うもの
がんの治療に伴うリンパ管やリンパ節の切除や放射線照射の影響で、リンパの流れるルートが途絶えてしまいます。
そこで身体は正しい方向にリンパを流そうとして細いリンパ管を発達させ、“脇道(迂回路)”を形成。
この“脇道”が詰まったり、流れが滞ったりすることで組織にリンパがたまり、むくみ(リンパ浮腫)が生じます。
リンパ管周囲の血管や骨格筋の緊張性収縮
リンパ管をとりまく動脈や骨格筋の収縮によって、リンパの流れに勢いが生まれます。
しかしその収縮が持続するとリンパ管は圧迫され続け、リンパの流れが滞ってしまいます。
血管や骨格筋の緊張が持続する原因は「交感神経の活動異常」。自律神経のバランスが崩れてしまった状態ですね。
さらにリンパ管平滑筋も交感神経の支配を受けているので、リンパ管自身も縮こまってしまいます。
慢性炎症、ストレス、食生活など
先ほど「液性調節機構」のところで、
ブラジキニンやセロトニン、プロスタグランジン、ノルアドレナリン、ヒスタミン、ドーパミンなどの物質のはたらきによってリンパ管平滑筋は収縮し、リンパ流量は増加します。
しかし高濃度になるとリンパ管平滑筋は緊張し続け、リンパの流れは滞ります。
といいました。
これらの物質は炎症が起きたり、ストレスがかかったりしたときに体内で発生が増えるものばかり。
慢性的な炎症状態やストレスを蓄積している状態ではリンパの流れにも影響。
感染や肥満、寝不足、運動不足、疲労蓄積、精神的ストレス、食生活の乱れ(とくに糖質や脂質のとり過ぎ)などによって慢性炎症がおこります。
近年では活性酸素による「酸化ストレス」が慢性炎症をひきおこし、さまざまな病気や不調、老化につながると明らかにされています。
リンパの流れを改善する方法
リンパの流れを改善する手法として弾性包帯や着圧ソックス、リンパドレナージなどがあります。
リンパドレナージやリンパマッサージなど徒手的な方法は、むくみが軽度の場合には有効ですが、リンパ浮腫が進行するとセルフケアでは困難。むしろリンパ管や皮ふを痛めてしまう場合もあるので、医療機関を受診するようにしましょう。
【根本的解決】リンパが「流れる」状態へ整える
でも、以上のような身体の外部からリンパを「流す」だけでなく、本来はリンパが滞りなく「流れる」状態にあるのが理想ですよね。
リンパが「流れる」状態に整えるカギを握るのが、慢性炎症や高ストレス状態の緩和。
血管やリンパ管につまりなくさらさらと流れる。筋肉もしなやかに収縮と弛緩をくりかえし、ポンプ作用が働く。
そのためには自律神経を整えるのが大前提!
十分な睡眠と適度な運動、バランスのとれた食事によって、交感神経と副交感神経がバランスよくはたらくリズムを刻みます。
外からの力や他力によって流せばいいというわけではなくて、「そもそも、なぜリンパの流れが悪くなったのかな?」と原因を探りましょう。
ストレスを引きずっていなかったかな、忙しくて寝不足じゃなかったかな、食生活が崩れていなかったかな…
その原因を改めるように生活を整えていけば、あなたの身体は「ホメオスタシス」という自然治癒力によって本来の調子をとりもどします。
ぜひこの機会にふだんの心と身体のケアを見直していただければうれしいです。
参考書籍